第7章 プロジェクトの立て直し
新たな契約
佐々木は、総務部長の水沢に提出するプロジェクトの再提案書に次のような要素を盛り込んだ。
・ベンターとの契約見直し
丸投げになるSIの契約を改め、ベンダーとは準委任の契約を行う。主に要件定義工程を依頼する。
・自社でできることはすべて自社で行う
業務フロー・画面の設計は自社で記述する。
プロジェクトマネージャーも自社が中心に行うことにする。
・業務の断捨離
歴史的に積み重なった業務、機能を全面的に見直す。
・外部コンサルタントの登用
データモデルを作成するためコンサルタント、そして、アジャイル推進のためのコンサルタントを登用する。
・方式・体制
開発方式はスクラムによるアジャイルとする。スクラムマスターは登用するコンサルタントが務める。プロダクトオーナーは、佐々木自身が行う。
・プロジェクトマネージャーをチーム化。佐々木がプロジェクトマネージャーを務める。日比谷ソフトウェアの前田と加藤がプロジェクトマネージャー補佐という3名体制とする。
以上の骨子をもとに、プロジェクトのスコープ、スケジュール、予算、体制などを見直し、前回作成されていなかったプロジェクトチャーター(憲章)に記した。プロジェクトのカットオーバーは、段階的に行うことにした。もっとも重要な部分のリリースは悩んだが、日比谷ソフトウェアから受け取った再提案書を踏まえて暫定的に、年内、2020年11月に設定した。予算規模は、変えなかった。頓挫したとはいえ、すでに現場へのヒアリングなど現状分析における情報の蓄積はある。詳細な予算の見積もりは日比谷ソフトウェアの返答を待たなければならないが、彼らの意欲は再提案の内容からも伝わってきた。無論、これまでの人海戦術では遅延分も含めて工数が増えて、日比谷ソフトウェア側のコストは膨れているだろう。そうした状況も踏まえて、プロジェクトの遅延に対する賠償責任は直接問わないこととした。今後もお互いに責任を共有する、という意味を込めた。果たして、新たな業務モデルの実現にどれくらい金額がかかるか、投資対効果はどうか。何れにせよ小口化し優先順位をつけることが大事だ。
3月2日(月曜日)、総務部長の水沢に提案書をメールで送った。
水沢からは、ほどなく返事が来た。その日のうちに、佐々木は水沢と直接会って内容について打ち合わせをし、若干内容に手を入れた。そして水沢は受理。上層部に伝える旨を佐々木に伝えた。
3月3日(金曜日)、再契約に向けた経営会議で、提出された佐々木のプロジェクト提案が議題に上がった。そして藤四郎ら上層部からの決裁が下りた。ただ、藤四郎に正しく意図が伝わっただろうか、佐々木は図りかねていた。その後、法務部が契約書の案を新たに作成し、日比谷ソフトウェアと共有され、改めて協議が進められることになった。日比谷ソフトウェアも条件をおおむね呑んだ。基本的な方向性は、両社とも合致していた。
並行して佐々木は、遠藤にアドバイスされたデータモデルの作成、そして、アジャイル推進のための専門家とコンサルタントについては、日比谷ソフトウェアに依頼をした。
その依頼に対して、日比谷ソフトウェアが二人の人物を紹介した。
アジャイル開発のコンサルタントは、山田晴明(はるあき)、48歳。
データモデリングの専門家でアーキテクトの木村翔太(しょうた)、40歳である。いずれも独立経営のコンサルタントだった。加藤が社内に相談を持ちかけ、アジャイル開発の経験者から推薦されたのが、この二人だった。
3月10日(火)の午後、佐々木は、加藤、前田とともに呉服の桐生で今後の推進体制について打ち合わせた後、紹介された山田と木村の二人と挨拶を初めて交わした。
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