第59回例会報告:LIXIL「LIXILのグローバルIT戦略」

第59回例会報告

日本は経営者をプロとして契約する時代に突入した。プロの CIO として先駆者的な契約を された小和瀬様をお迎えし、業界の異なる花王から LIXIL に移られて、どのようなビジョ ンを掲げて日々の活動をされているのかを具体的にお話して頂いた。

 

icon-check-square-o 振り返ると

長年、花王のシステムを担当している中で大きなターニングポイントとなるべき出来事が あった。タイに駐在して SAP の導入を行った経験である。SAP を導入したのは大きな目的 がある。それは、業務のグローバル標準をタイに展開するためである。加えて、合理的にコ ストを削減し、世界のベストプラクティスを横展開することであった。例えば、コードの統 一、KPI の統一などがある。さらには、SAP の導入は外部に丸投げすることなく、自ら考 え、手を動かして導入した経験が今の自分を大きく形作ったのではないかと思う。LIXIL は 数年前に複数の企業が一つになりグローバル展開を目指していた。ある時お誘いを頂き現 状をお聞きすると、個別最適化されたシステム、メインフレーム等の課題が沢山存在してい た。このチャンスを活用して LIXIL 大きく変えたいとの思いで転職した。

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icon-check-square-o 常にベンチマークを設定

真のグローバル企業は確実に一人当たりの IT コストが安い。理由は、10~15 年掛けて全体 最適化、マスター・データ・マネジメント(MDM)等の核となる考え方、取り組みをしっ かりと社内システムの中に取り入れて構築してきた歴史がある。しかしながら、日本は守り に入り縦割り構造の部分最適化、現場の要望を聞いて作り上げる文化を行ってきた違いが 大きいと考える。さらには、プログラミングを外部に丸投げして来た事は、システムの構造 そのものを理解できない状態へと作り上げたのではないかと考えている。

SAP を導入する事は単にシステムを導入することだけではない。仕事の基礎である計画、 指示、実行、報告の 4 つの段階がシステムの中に組み込まれているのである。この 4 つの 段階をよく考えてみると、PDCA サイクルそのものであり、仕事の本質であることに気付 く。この考え方を世界標準として横展開を実施するなら業務の標準化を実現することが出 来る。また、ポリシーとしてアドオン開発はできるだけ作らないようにしている。

icon-check-square-o グローバル企業を目指す活動

どのような視点で行うべきなのかを以下の 3 つに集約できる

1.グローバル業務標準をデザインすること

2.グローバル経営情報の見える化

3.システムの柔軟性、汎用性

上記の3つの視点を考慮して LIXIL では現在プロジェクトを組んでシステムの見直しを掛 けている。6,000 システム、インターフェース 20,000 本存在している巨大プロジェクトで ある。同業他社との差別化戦略を行う部分は内製化して開発しているが、他の標準化できる 部分に関しては出来るだけサービスやパッケージを利用する方向性で進めている。選定す る基準としてグローバル展開を最初から視野に入れている為、日本メーカーの製品を選定 することは少ない。理由として、言葉と時差の問題をクリアすることが難しいからである。

グローバル標準化の秘訣として以下の3つを信念として活動している。

1.信念、志、パッション

2.HOW ではなく、WHY の説明が重要

3.相手の困りごとは一緒に解決

特に 2 は重要で、決まった事実をどのように伝えることがよいのかである。日本の本社が 決めたからではなく、物事の本質を伝えることで理解を求めている。また、標準化は 1 つに する事ではなく、幾つかの手段を見つけ出してパターン化することである。

icon-check-square-o 人材育成

人の育成にも力を入れている。社員一人一人と面談をしている途中であるが、次のことを本 人と話し合っている。

1.個人として自分の市場価値はいくらなのか

2.自分は何のプロなのか

目標としてるのはプロを作り出して世に排出することで、エクセレントカンパニーを目指 している。

icon-check-square-o 質疑内容

Q.システムを全面統合して1つにする事と、現存の企業のシステムをつなげる事に特化し て行なう時のメリット、デメリットは?
A.現在のシステムのデータ連携は暫定対応と考えている。理由として売上の定義、勘定科目 が合うかと言えば基本的に合わない。但し、どちらを選ぶかは会社の状況により異なるので はないかと考えている。基本的にシステムは一つが望ましく、経営、業務面のメリットは大 きくなる。

Q.企業文化が異なる人が集まると説明しても理解してもらえないことがあるかと思うが苦 労話は?
A.事業部制の文化が強く、理解してもらう事が難しかった。商材毎に実施していたものを幾 つかのパターンにして標準化することに苦労した。システムを作成する事よりも、業務を変 えることの方が大変である。例えば、業務をシステム化する事が困難なビジネスの中からパ ターンを作り出し、業務標準を作成してからシステムを構築した事がある。最初に勇気を持 って伝えて現場に理解して頂く必要があるのは、SAP を導入すると業務効率が落ちるとい うことである。理由としてエビデンスが必要になり、ガバナンスを優先してデータを入れな ければならないからである。

Q.コミュニケーションとして大切にしていることは?
A.本質を追求して本気で望むこと。熱い思いを持ってなぜそうしたのかを説明することに している。現場で効率が落ちた時にプロジェクトとして困ったことを一緒に考えるように している。この工程を現場に任せてると成功しない事が多い。また、飲みニュケーションは どこの国でも必要と考える。

Q.人材育成に関しての課題は?
A.400 人の社員を内製化に向けて舵取りの方向性を変えていること。課題と感じているのは リーダーのプロジェクトマネジメント力。外部にプロジェクトを丸投げする事なく、自ら行 うよう促している。常に伝えている言葉として、『ロケットの開発を知らなくては WBS を 引けない』その為には要素技術を身につけるよう社員には伝えている。

Q.業務プロセスの作成は日本では出来ないが海外はできているのは何故か?
A.業務プロセスは誰が決めているのかを知れば質問の答えが直ぐに理解できる。欧米は現 場とは別の組織が権限、責任を持ち運用管理を行っている。しかし、日本は現場で権限を持 ち行ってきたため出来ていないのが大きな違いである。

 

坂本克也(BI-Style株式会社・BSIA運営委員)

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