第80回例会報告:松田貴久美氏 「沖縄流「Ecoまるマネジメント」による業務プロセス改善活動とRPA導入までの歩み」

第80回例会報告

沖縄流「Ecoまるマネジメント」による業務プロセス改善活動とRPA導入までの歩み

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OBCO流生産性革新と働き手の多様化

RPAの活用は現在、業務効率化の新たな技術として注目されているが、実際にはどのように活用されているのだろうか。オリックスビジネスセンター沖縄では2016年からRPAによる業務効率化に取り組んでいる。

リーマンショックから始まった生産性改革

オリックスビジネスセンター沖縄(以下、OBCO)は、オリックスグループのシェアードオフィスセンターとして、13社36種の業務を受託している。沖縄県内に3か所の拠点があり、約780名の従業員のうち9割が女性という構成だ。リースや金融、リテール事業等多岐に渡る業務を受託しているため、1つの会社の中にさまざまな業務が存在しており、社内の異動でも転職のようなインパクトがあるという。
OBCOが生産性革新に取り組み始めたきっかけは2008年のリーマンショックだ。事務の効率化の対象組織としてOBCO(当時はオリックスコールセンター)が候補に挙がり、取り組むこととなった。それまでは業務の効率化といっても、定性的なものにとどまっており、「何の武器も持たない状態」であったと松田氏は語った。しかし、2009年にまずは可視化から始めてはどうかというグループ会社の打診もあり、コンサルタントも入って業務可視化のノウハウを吸収していった。
一連の業務改革活動を「ECOまる活動」「ECOまるマネジメント」として継続的に取り組んでいる。「ECOまる」とは、「えー効率」(良い効率)と沖縄の「ゆいまーる」(相互扶助)の精神を持って活動するという意味がある。そのプロセスは1.業務の可視化、2.計測、3.分析、4.改善のPDCAを回すというシンプルなものであるが、各プロセスへの徹底した取り組みがOBCOの業務効率の向上とさらには働き方の多様化を支えている。その改善活動の一つとして、RPAが活用されている。

業務の可視化はBPMN(Business Process Modeling Notation)というビジネスプロセスモデルリング表記法を使って、標準業務体系の作成している。基本はプロセスレベル3までだが、OBCOではレベル7まで行っているという徹底ぶりだ。RPAの活用を進めるにあたっては、設計書等は作成せず、この業務標準体系をベースにしているという。

徹底した計測が業務改革プロセスにつながる

驚きなのは計測の手法だ。今でこそ、ECOまるツールという専用のシステムを利用しているものの、当初は手書きで一人一人が時間と行ったことを記録していた。2年後からExcelのマクロを用いた計測になった。ただ、この手書きであったりExcelであったりの過程があったからこそ、ECOまるツールの作成はうまくいったという。「4年間の運用実績があったため、それが要件定義と同意義となった。今はリアルタイムで各メンバーの業務を把握できる」
分析ではチームごとの稼働率のバラつきと個人の生産性のバラつきを定量的にチェックしている。稼働率については、80%が基準となり70%なら余剰あり、90%なら繁忙期で応援が必要というふうに計測結果から調整ができる。個人の生産性については、生産性のバラつきの理由を分析し、マニュアルや研修の見直しを行う。また、難易度が高いとされる業務に関しても、作業を細分化し、それに対して難易度を設定することで、業務の難易度を下げる取り組みも行っている。スキルトランスファーに数年かかるといわれていたもののも、本当に難易度が高いとされるのは業務の一部だ。分析を進めると、難易度が高い業務は全社の業務の3割であることが分かった。残りの7割を効率化のターゲットとして年次の低いメンバーや在宅のメンバーで処理することで効率化が図れる。さらに、組織としてのKPIの管理は横串を通した形で行っている。計測結果を基にKPIと推移・課題・改善ポイントが一覧化できるようツール化し、月次の会議で各チームから経営陣へ報告し共有している。
改善プロセスでは、応援がキーだ。繁閑差を利用して、当日の処理量から応援を申し出る簡易作業応援と予めチーム同士で応援を設計する計画的応援を行う連携を実施していた。また、定型業務は改善活動により稼働時間を削減し、分析で非定型業務についても業務を細分化し、定型業務に変えられるところは定型業務としてフローを改善した。社員でしかできない仕事とされていたものも定型化する事で業務を切り出して、働き方、働き手の多様化へ踏み出すことができた。
よりメリットの大きい働き手に業務を再配分するという考え方の元、まずは社員の働き方の多様化というところで、社内勤務・在宅勤務という切り分けを行った。そして、次のステップでは、プライベートワーカー、クラウドワーカー、デジタルレイバー(RPA)、外部委託に振り分けることで働き手の多様化を実現した。

業務改革のベースがあったからこそのRPAへの取り組み

このような業務改革の礎があったからこそ、RPAへの振り分けがスムーズに進んだ。RPAの推進ポリシーとしては人がやっていた作業をRPAに代わってもらうということだ。もちろん、RPAが止まってしまった場合は人が行う。ある業務ではOCRで読み込めなかった紙媒体のアナログデータを基幹システムに入力するのに、1件辺り約10分の時間がかかっていた。しかし、クラウドワーカーとRPAを利用することで処理時間が1.7分に短縮された。アナログデータをチップ化し、クラウドワーカーへ配信し、クラウドワーカーにてデジタル化されたデータはRPAにより基幹システムへ自動転記を実現したのだ。その後は業務を分類し対象業務を棚卸、公募でIT企画チームを設立、現場主導での体制構築を実現した。「RPAは手段の一つ。業務が可視化され、組織で把握しているからこそ適用できる」と中田氏は強調した。

会場からはOBCOの取り組みに対して、テーブルディスカッションが行われ、その後の質疑応答では中田氏の上司であるオリックス・ビジネスセンター沖縄企画開発部第三事業部部長の喜舎場(きしゃば)信江氏も参加し、盛り上がりを見せた。
会場からは、OBCOの取り組みについて、大変な計測をどのように根付かせたか、また現場での進め方について質問が上がった。また、OBCOの9割が女性という構成が成果に影響したかという質問に対しては、女性の性質的な面が影響したのではなく、あくまでも早く帰らなければならない、早く帰りたいという時間の制約があるという事情がゆいまーる精神と組み合わされ、「みんなで協力して早く帰る」というゴールにつながったという。また、ただ単にゴールを設定するだけでなく、メンバー皆が計測に参加し、マネージャーもコスト管理や予実管理を行って、それをツールが支援するという仕組みがOBCOの業務改革を支えている。業務効率化の成果に対して、従業員への還元はあるのかとの質問もあった。それによると、OBCOの就業時間は当初9時から18時だったが、成果が認められ、17時までに短縮された。会社の変化をメンバーが感じられることで、さらに「こうなりたい」というビジョンをメンバーが描き、モチベーションになっているという。

BSIAの木内会長は2017年にOBCOを訪問しているが、その取り組みに感動したという。9年間に渡る業務の可視化から、計測、分析、改善のプロセスを組織でサイクルとして回し組織の仕組みとして機能させ、さらに振り返りを行い、メンタリティを見直し、組織の文化として根付かせている。「ここまで徹底している事例は初めてだ。そして、やればできるという強いメッセージを感じた」と締めくくった。

田口雅美(株式会社キテラス・BSIA運営委員)

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