第77回例会報告
「なぜベンダーマネジメントは上手くいかないのか? ~ プロジェクト成功への処方箋 ~」
講演タイトルは「なぜベンダーマネジメントは上手くいかないのか? ~ プロジェクト成功への処方箋 ~」でした。
現在、企業情報システムは複雑かつ多岐に亘るようになり、ITベンダーとの協力関係なしでは実現できなくなっています。しかしながら、ユーザ企業とITベンダーの関係は必ずしも良好とは言えないケースが見られます。
本例会では、この「必ずしも良好でない」とされるユーザ・ベンダー間の関係の修復、すなわちITビジネスパートナー同士の「信頼関係」の回復、あるいはその構築の方法論について、ベンダー側、ユーザ側それぞれの提言をとりまとめ、ご報告していただきました。
王子物流株式会社 西住浩樹様
この分科会は、2014年から行っている。
今年度はユーザとベンダーの信頼関係の構築を中心に議論を進めた。しかし、信頼と一言でいっても様々な捉え方があり齟齬も多かった。
そこで、山岸俊男氏の「信頼の構造」を議論のベースにおいた。この書によると、信頼という言葉には、相手の能力に対する期待と、意図に対する期待の2種類があるということ。そして、その中の意図に対する期待に関しても、安心と信頼という2種類の様相がある。
ここで、日本における信頼というものを考える。 日本の田舎では、家に鍵をかけないこともある。これは、その社会に安心があるからだ。小さな安心のあるコミュニティでは、悪いことをすればすぐにわかる。
このような、村社会的構造、集団主義社会というものが、日本の本性かもしれない。それは経済においては、ケーレツ・株の持ち合い・元請け-下請け、護送船団といった現象に現れた。
しかし、その安心社会に安穏としていた時代は終焉をむかえる。そして、それが顕著だったのが、IT業界ではないだろうか。 このような日本的な集団主義社会は、グローバル化した現代において他国に勝つことはできないだろう。
だから、好むと好まざるにを得ず、西洋的な発想に変わっていかなければならない。 このような背景のなか、ユーザ・ベンダーの関係について整理した。テーマとしては、スキル/ゴールの共有/ コミュニケーション/共創を挙げた。
米田正明様
私はこの分科会では、ベンダサイドという立場になる。
その立場から、テーマのひとつであるスキルについて考察する。
まず、ある程度のスキルがないと、いくらゴールを共有していても、コミュニケーションが円滑であってもうまくいかない。「ある程度」のスキルは前提といえる。
ベンダーサイドからの視座だと、ユーザ企業側にもっとスキルをつけてもらいたいと思っている。そもそも、スキル不足による被害はユーザが被る。
では、どのようなスキルが必要か? もちろん、それは個々の企業によって異なる。戦略的に考える必要がある。そしてまずは、どのような知識が存在するかをまとめるところから始まるだろう。
そして、現状のスキルレベルを客観的に把握し、そのギャップに対して目標を設定して取り組んでいく必要がある。 この取組のなかで有効なのは、やはりUISSだろう。
また、スキルは知識だけにとどまらない。それに実践的経験を重ねることが本質だ、それで初めて腹落ちすることができる。具体的には、教育とプロジェクトでの実践を戦略的に計画し、これを繰り返すことだ。
株式会社データ総研 堀越雅朗様
ここでは、ゴールの共有について考えてみる。
信頼を構築するためにはチームを作らなくてはならない。そしてチームとは目標が存在する。しかし、それが共有されていないのではないか、という点が議論の出発点となった。
そこで、その原因分析をおこなった。 その中で、ユーザ企業においては、当事者意識が希薄・技術力不足・プロジェクトマネージメントができない、などがあげられた。またCEOを理解が足りないと言う意見も出た ベンダー側においても、目的はあえて確認しない、と言う話も出てきた。
全体的に共通するのは、目的・狙いの重要性を十分に理解していないと言うこと、また目的・狙いの定義方法、技術を知らないということが言えるだろう。
次に、そのための処方箋をまとめた。 その内容は、ユーザ企業のIT部門においては、スキルに該当する項目が多く、ベンダー側においては組織文化やコミニュケーションに分類される項目が多く挙がった。 そして共通するのは企画・要件定義の技術教育、業務を可視化する技術、プロジェクトマネージメント技術などがあがった。
ここまで述べてきたとおり目的・狙いを共有することがパートナーシップを強固にする。しかし現実は複雑である。それはパートナーとの契約形態であったり、プロジェクトの工程ごとに政策が異なるということがあげられる。
これらの複雑な状況を解決するには、鳥瞰的視点でのチェックや、失敗を糧にする文化が重要と言えるだろう。
会計検査院 土肥亮一様
3点目のコミュニケーションについて考察する。
これまで見てきたようにIT業界の現場には様々な問題が存在する。これらを解決するためにコミニュケーション環境を改善しなければならない。それが意義のあるシステム開発につながるだろう。
思えば30年ほど前のメインフレームの時代には、ユーザがシステムを作るのが当たり前で、ベンダーはユーザ企業に常駐し、スキルは先輩からのOJTによって培われてきた。 その後、1990年代終わりからのアウトソーシングシフトがあり、その後全てを外注するようになり、結果丸投げとなった。同時にベンダーのビジネスモデルも変化し、ハードウェア中心からパッケージソフト中心に移行した。
そして、現代のシステム開発の現場では、会話が少なく、先輩との時代のギャップがあり、声もかけにくい状況だ。
ではその処方箋を考える。 第一に、コミニュケーションは量が大事である。そしてそれは雑談を増やすことがいいだろう。
次に、ベテランと若手間のコミニケーションの場を強化する。そのためのオフィススペースを設けると良いだろう。
そしてさらには、他部門間の勉強会を企画したり、他社との交流会に積極的に参加するなどの策が必要だ。
株式会社アスカプランニング 永谷裕子様
次に、共創について考える。
日本古来のビジネス論理に、「三方良し」と言うものがある。それは、売り手・買い手・世間の全てが満足する状態である。
そのためには、全体のマネージメントが重要となる。しかし現実は、プロジェクトマネージメント、プロジェクトリーダーと言う職が不人気で人材が育たない。
ここで日米のIT産業を比較する。日本はアメリカより収入が低く、残業時間も多い。そして仕事に対する満足度もアメリカより低い。そして何より、自己啓発に充てる時間が日本は、アメリカや中国よりもはるかに低い。これが現状である。
これらを解決する処方箋としては、和魂洋才のプロジェクトマネージメントを実践することが良いと考える。洋才においては、西洋的プロセス指向の知恵を借りよう。和魂においては、関係人間志向の安心・信頼を補強する。
では、洋才のプロジェクトマネージメント技術を見ていこう。
PMBOKでは、プロジェクトを見える化することで、コミニケーションを促進する「道具立て」がいくつもある。具体的には、プロジェクト憲章・WBS・リスクマネジメント・役割分担表などだ。これらの道具立て賢く使うことが良い。
また、ポートフォリオ・プログラムマネージメントでプロジェクトの目的を共有することも重要だ。PMIによると、プロジェクトとは、企業全体が負うものとされている。つまり、プロジェクトは誰のものか、それは企業自身のものであるということ。当たり前だが重要な確認である。
そして、最後には、働く人間の一人一人の個の力が重要となる。キャリアは自ら作り、国や会社に頼らない自己を作り上げる必要がある。
質疑応答
・世の中は複雑になってきている。より工学的なアプローチが必要だろう。
→PMBOKでは、WBS、リスクマネジメントなどの道具立てで、可視化する技術がある。
→データ構造もモデリング技術が重要だ。
・ITプロジェクトの保険は機能するだろうか?
→ QCDにおいて、C(コスト)で解決するプロジェクトならありだろう。
・安心、信頼は安定につながる。これは却って良くないのでは?
→もちろんそうだろう。ユーザ側は安心ではなくリスクをとらなければならない。
→そもそも、請負契約はやめるんべきだ。
→民法改正で、準委任でも成果を求めることができるようになる。
まとめ
・発注者側に求めるスキル、具体的には何かをいうことが重要である。
・また、現在技術力のない人間をどうするかの処方も検討しなければならない
・建築の現場では、発注者は建築物の知識はない。それでも発注がなされている。
・それは、図面やCGなどの様々な可視化ツールがあるからだろう
・あと、契約についても考察する必要があるだろう。
・ベンダーにおいては、IT用語を使わずに説明できるようにならないといけない。