第76回例会報告:駒澤正樹氏 「サッポログループにおけるITインフラ統合」

第76回例会報告

サッポログループにおけるITインフラ統合

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1月31日、第76回の例会が開催されました。今回の講師は、サッポログループマネジメント株式会社 グループIT統括部 シニア イノベーション エキスパート 駒澤 正樹さん。
講演タイトルは「サッポログループにおけるITインフラ統合」でした。

サッポロホールディングスではこの10年の間に多数のM&Aを実施し、様々なサーバやホストコンピュータが存在する状態となってしまい、ITインフラの運用が非効率になっていました。
今回この状態を改善するために、ITインフラの標準化を推し進めることとなり、また、並行して海外のM&Aの進展に伴い、海外展開も進めていきました。
本連携では、この辺りの経緯について、ご紹介をいただきました。

知らなかった酒税と目的

最初に現状のビジネスの話の中で驚いたことがある。個人消費者として考えた場合に、ビール1本にどれくらいの税金が掛けられているのかを明確に理解している訳ではない。仮に税込み1兆円の売上の場合、酒税として2,500億円もの税金を収めなければならない、つまり25%が税金であることを知った時にお金の重みを感じた。

今回の目的は大きく分けて2つあり、①企業買収を続けてきたためにシステムのインフラ全体の見直しを掛けることと、②BCP対策を踏まえることである。数多くのM&Aに伴い大なり小なりのシステムが点在し、OS、データベース等を調査すると様々な種類とバージョンが存在していた。最も大きな課題はデータを取得して連結させる部分にあった。EAIを導入したが高コストとプログラムを記述しなければならないため苦労した。もう一つの課題はデータセンターが複数点在していた点である。インフラ面ではサーバ契約更新タイミングが目先に集中していたことも課題の中に含まれる。今回最も重要なタスクとなったのはメインで使用していたデータセンターが閉鎖されることに伴い、ゼロベースで見直すことを行なった。

プロジェクト開始

プロジェクトを立ち上げて現状のサービスを全て見直し、新たなあるべき姿を検討して進めた。標準化は単純にOSをWindowsとLinuxに集約することが目的ではない。その先に明確な目的があった。それはインフラを所有し続けるのではなくクラウドに移行することで、サービスとして利用することをゴールに設定して進めた点である。そのための標準化を段階的に進めた。とは言いつつ、現実的にはメインフレーム、アプライアンス、UNIX等様々存在している。中にはプログラムをコンバートして新たな環境で稼動させることや、十分に検討した結果止めたサービスもある。

更には、基幹系のパッケージソフトもサービス利用の方針を打ち出してEBS、DWH、Siebel等はプライベートクラウドに移行している。加えて、Office365、SharePointに集約する方針に基づいて移行を行った。新たなデータセンターの選定や新規に導入するインフラを決めながら着実にスケジュール通りに進めた。その結果サーバ数を減らすことも成功し、大幅なコストダウンを実現することが出来たのは経営に対して大きなインパクトを与えることが出来たと駒澤氏は力強い言葉で述べていた。

大きく掲げた2番目の目標となるBCP対策は経営側からも指摘を受けており、会社として重要課題に含まれていた。一番の問題はデータセンターを東京都に一極集中したため、甚大な災害が発生した場合にシステムの停止が想定される。その為、何としてでも影響を受けにくい場所に設置する必要があった。検討した結果、関西方面にデータセンターを設置することで災害が発生して万が一停止したとしても、継続的にシステムを利用できる状態にすることを目指して行なった。

人にもメスを入れる

更には人にも目を向けて少人数でITインフラを担当する要員を見直した。例えば、サーバ数に比例して抱え込んでいるインフラ担当者の業務を手順書化して、少人数で回す仕組みを作り上げてコスト削減を実現している。人を削減することで経営側から見て大きなインパクトになった。運用面で手順書通りの作業は問題なく行うことが出来るが、イレギュラーの作業を依頼すると作業を実施できないケースも見受けられたため、新たな課題の改善が必要になる。

継続的なモニタリングの効果

サーバの集約に関しては極力仮想化にすることを前提に進めた。しかしながら、何でもかんでも高スペックなサーバを利用すれば良い訳ではないため、サーバ毎に負荷を測定して見直した。例えばCPUを最も利用した時でも10%しか利用していないようなサーバは、ロースペックに切り替えることでコストを大幅に抑えることができた。基準値として60~80%まで届くようなハードウェア構成に切り替えることにしている。これはとても素晴らしいアイデアであると感じた。定期的に測定してモニタリングし、スペックを切り替えていく作業は正直泥臭い作業かもしれないが、実は少しの積み重ねが大きなインパクトを与えるまでになることを今回の活動は物語っている。具体的な数字として、5年間地道な活動を行うと何と、1億円の削減ができると駒澤氏は声を高めて力強く述べていた。どんなからくりがあるのだろうか。実はサーバインフラは購入している訳ではなく、借りているところにポイントがある。つまり、高スペックのサーバを借りて運用してた場合、負荷率がとても低い場合はロースペックに変えてもらうことでサーバの利用料金を単純に抑えることができるのである。この活動を地道に進めた結果が大きな結果に繋がっている素晴らしい運用事例である。

コスト削減としてサーバーラック数は87%削減でき、サーバのコア数はパフォーマンスモニターの効果もあり、プライベートクラウドに移行した時と比較をして30%削減することができた。今回はインフラコストを削減する実際的な方法について話を聞くことができ実りの多い時間であった。

Q&A

今回初の試みとしてディスカッションタイムにアルコールを飲みながら行なった。渇いた喉を潤してくれるエビスマイスターが舌を滑らかにしてくれて、有意義な話し合いを牽引してくれたのではないだろうか。

Q:マイグレーション作業では多種多様なOSを対象にしていたがどんな苦労があったか。また、Oracleのコストをどうすべきかで悩んだと思うが、最終的にOracleに固めた理由を教えてもらいたい。

A:メインフレームは極力減らしてからCOBOL、JCL、バッチで作成しアプリはWindowsでも動作するためそのまま移行している。AS400は全て作り直しをした。買収した企業がたまたまOracleのEBSを導入していたためOracleに統一したという経緯がある。

Q:2ヶ月間という短期間で計画をしっかりと作りこんだが、どのように作成して実行をやり切ったのか。意見が割れ衝突が起きた時の対応はどうしたか。

A:コンサルを入れずに社員だけで計画を完成させた。社内の上位層や中間層を巻き込んで進めると同時に、既存のベンダーにも伝えて、具体的な活動計画を作成したのがよかったのかもしれない。実施段階では、毎週の進捗を繰り返して徹底的に進め方を模索しながら進めたことが成功要因ではなかったかと思う。意見が分かれた不安材料は、実際にテストを行い結果を見て納得して頂いてから決定をするというプロセスを徹底的に行なった。

Q:マイグレーション作業の費用対効果を教えてもらいたい。

A:帳票の数を7割減らして、画面を500から20に減らす努力をしてからマイグレーションを行なったため、コスト面では下げることは出来たが、イニシャルコストはそれなりに掛かっている。

Q:グローバル人材の育成に関して何か取り組んでいるのか。

A:選抜した人間に対して電話での英会話や、集合研修、海外研修を行なっている。

坂本克也(BI-Style株式会社・BSIA運営委員)

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