BSIAシンポジウム2019レポート: 基調講演「技術の進歩は人々の幸せのために!」

技術の進歩は人々の幸せのために!

株式会社hapi-robo st 代表取締役社長
ハウステンボス株式会社 取締役CTO
富田 直美 氏

BSIAシンポジウム2019はハウステンボスの「変なホテル」の立役者である富田直美氏の基調講演で幕を開けた。
株式会社hapi-robo st 代表取締役社長、ハウステンボス株式会社 取締役 CTOとして H.I.S.グループのロボット事業を統括している富田氏だが、最も力を入れて活動しているのが富田考力塾だという。考力すなわち考える力を、我々はいかに培っていけばよいのか。自ら考え旺盛な好奇心を持ちマルチ・プロフェッショナルを実践してきた富田氏から、この時代に自分の頭で真剣に考え経験してみることの大事さについて伺った。

考えることは主体的に参加すること

tomita
まず、富田氏は会場の参加者へ、「今座っている席一つで参加の姿勢がわかる」と投げかけた。参加には4つの段階、1. Just Sitting 座っているだけ、2. Participate 消極的参加、3. Involve 積極的参加、4.Engage 主体的参加がある。後ろの席でも前の席でも時間は同じだ。ならば、より主体的に、積極的に参加した方が良い。このような会への参加だけではない。日々私たちが生きているときに自分のこととして捉え、Engage=主体的参加するかが問題だ。そして考える力と主体性は密接に関連する。

「考える力は自分に備わっているに決まっていると考えている人が多い。しかし、考えているように見えて考えていない。日本人にはクリエイティビティがないという人もいる。同じように考える力もない。しかし、日本人だけでもなく、世界中の多くの人がそうだ」(富田氏)
富田氏は最近話題のパラリンピックから障がい者についての考え方を例として取り上げた。
「たとえば、ロボットを見て『その機能は障がい者にとっていいですね』と言う人がいるが、その考え方は上から目線だ。そんな押し売り的な視点で物事が進むわけがない。すべての人間は不完全だ」(富田氏)
だからこそ、主体的参加の姿勢で、どうすれば「買いたい!」と思われる価値を生み出せるかを考えなければならない。

では我々が考える力を得て、クリエイティビティを発揮するにはどうすればよいのか。
「1番難しいことを考えることで考えるトレーニングとなる。それは、自分自身の幸せについて考えることだ」(富田氏)
良い学校、良い会社に入って、良い人と家庭をもちなさいと親に言われたことはないか。そこで、良い学校とはどんな学校か。偉い人がいっぱい出た学校か。偉い人とはどんな人か。そこまで考えたか。良い会社とはどんな会社か。団塊世代にとって、就職とはライフタイムエンプロイメントだった。だから、大企業が良い会社とされた。しかし、今は違う。そのときの良い会社の概念は崩れている。良い人とはどんな人か。どんなパートナーが自分にとって良い人なのか。その時々で変わるなら、考え続けなければいけない。
「人はさまざまなバイアスがある。誰かに言われたことのコピペそのままでバイアスのかかった価値観に留まっていないか。自分自身の幸せについて考えることは、自分のOperation Systemについて考えることだ。自分のOSは自分にしかわからない」(富田氏)
そして、富田氏はパーソナルロボット、Temiの動画を紹介した。上海に出張中の母親がTemiを通じて、アメリカにいる家族とコミュニケーションを取るという内容のものだ。
そこで、MITのメディアラボ創設者で名誉会長のニコラス・ネグロポンテが提唱したAtom to bit、デジタルトランスポーテーションという夢について触れた。昔は、海外出張中に連絡が取れるなんて考えられなかった。電話で連絡する時代から、テレビ電話の時代、そして、ロボティクスを用いてコミュニケーションする時代になろうとしている。現代は30年前に誰もわかってないことを見つけて実現している。
だが、すごいテクノロジー、世界に空気のようなインフラがあるのに、多くの人は他の人と同じような使い方で、もっと良くしようとする改善ならやる。しかし、全くやれてないことに関しては取り組もうとしない。それはなぜか。みんな同じセンサーを持っているのにもかかわらず、自分のセンサーに対しての反応や反応速度は、自分自身の経験に基づいたものとなる。だからこそ、経験が重要だ。

考える力が足りない日本人へ、変なホテル仕掛け人が教える大事なこと

富田氏は自信が幼い時に包丁でけがをした経験を例に挙げ、人間が経験から得られることのすばらしさについて語った。
「包丁でけがをしたり、歩けるようになったり、教わらなくとも経験から人間は多くのことを学ぶ。考える力は人間のCPUだが、インプットがないと意味を成さない。インプットデバイス、つまりセンサーが大事。人間にはロボットには真似できないすばらしいセンサーが備わっている。五感を使って動くことで得られた経験によって、人間が獲得したものは全て正しい。経験すること、しないことの差はどれほどのものか。しないことは0、経験したことは1÷0となる。つまり経験することとしないことの差は無限大だ」

考える力、経験の大事さに加え、最後に富田氏が紹介したのは情報のヒエラルキーだ。
「まず下部にあるのがデータ(Data)でデータには私にとっては価値がない。次が情報で、情報は自分の外にある。そして、知識はお金と一緒で、持っていると嬉しいが、持っているだけでは何の役にも立たない。そこで、知識を用いて人を恵むことが知恵だ。人とは、まず自分だ。自分を幸せにするために知識を使う。そして、困っている人を助けるための知恵も、その人が喜んでくれるのがうれしくなる自分のためと考えることだ。環境を良くしたいと思うのも、自分が、自分の家族が幸せに暮らすことにつながる。自分の幸せについて考えることからすべてつながっている」
そして、これからの人々の幸せについて、シェアリングがキーになると締めくくった。
「世界中にいる自分が必要とする知恵を持つ人を探し出すためにAIを使ってマッチングする。そこで実際に移動することなく、デジタルトランスポーテーションで会う。お互いに世界中の人が必要な人と空気を汚さずに会いたいときに会える。そうやって生み出された知恵が幸せを生む。そういう世界が次の世界になるはずだ」

田口雅美(BSIA運営委員・株式会社キテラス)

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