第83回例会報告
日本の臨床検査サービスを下支えしながら、新ステージにビジネスを変革させてゆく為のIT改革
2018年9月例会は「日本の臨床検査サービスを下支えしながら、新ステージにビジネスを変革させてゆく為のIT改革」と題し、みらかホールディングス株式会社 IT本部長 金子 昌司 氏にご講演をい頂いた。あまり目立つことのない受託臨床検査業界ですが、実は日本の医療を支える非常に重要な役割を担っており、ITがその役割の下支えをしてる。本講演では、そんな受託臨床検査業界の概要をお話し頂きながら、合併を繰り返すことにより複雑化したITの仕組み・組織をどのように改革し、臨床検査ビジネスの今後の変革を推進してゆくかについてお話し頂いた。
みらかホールディングス株式会社 IT本部長の金子昌司氏に、同社のIT部門の取り組みを伺った。まずは、金子氏自らのバイオリズムを示し、今が絶好調であること、そして、多彩な趣味(料理&ワイナリー巡り、ウクレレ、テニス、スキー、スキューバダイビングなど)を持っており、自由人、FUN&PURITY(楽しみ、そして正直に生きる)を目標としていることを紹介された。
本日のアジェンダは、
- 臨床検査とみらかグループ
- Transform! 2020
- 臨床検査事業におけるITの役割
- ビジネス変革実現のためのIT改革
臨床検査とみらかグループ
みらかホールディングス株式会社は、「健康を届ける会社」を企業理念として、血液や尿などの検体検査を医療機関から請負、データとして報告することを主な事業としている。特に、病気の原因や進行度をチェックする特殊検査を得意としている。ほかに全自動分析器と試薬の医療機関への販売、医療器具の洗浄などを行うサービスの三事業を柱としている。
Transform!2020
ホールディングスは上記それぞれの事業会社の合併会社であり、シナジー効果で成長を目指しているが、現状はまだビジネス統合が十分には進んでおらず、この統合化を2020年に実現するため全社を挙げて Transform! 2020 なる、ビジネスの統合基盤、土台を作るプロジェクトを推進中である。その内容は、意識改革から始まり、人事制度の見直し、2020年以降を見据えた新R&D拠点の建設、ITシステム変革(IT機能集約とインフラ構築)に戦略的投資を行っている。これまでは大病院へのビジネスが主であったが、今後ホームドクター制度によりクリニックが重視されることを見越し、そこでのビジネス基盤づくりを進めている。その中で、IT部門では、「医療における新しい価値の創造を通じて人々の健康に貢献する」を合言葉に、AI・ITの活用で検査品質とスピードの向上、省力化など、ITに出来ることを模索しながら改革を進めている。
臨床検査事業におけるITの役割
ITを取り巻くビジネス環境は 8,000病院、10万以上のクリニック、トランザクションは日々20万検体・20項目の検査とそれらのトレーサビリティがある。それをシステムダウン・過誤が許されないという厳しい条件のもとに、400以上のアプリケーション、1,000~1,500サーバを運用している。Transform! 2020 / ITシステム改革では、これまで存在した9基幹システムの統合を新オペレーションシステムSAP HANAをベースに進めている。IT部門では、過去システム過誤を避けるため「何もするな」という風潮があったが、その意識改革から始めている。
ビジネス変革実現のためのIT改革
いよいよ、本日の講演の主題であるIT改革に話が移る。Transform! 2020 でIT部門は次の目標を掲げた。
- 変化に機敏に追随できるシンプルな組織
- 業務と一体化し、患者に目を向けたIT
- IT/Digitalを活用し、変革をリード出来る人材の育成
その上でIT部門が解決するべき課題として、分散し、老朽化したインフラの見直し(実際、企業合併したにもかかわらず、分散したIT要員、分散した業務システムなどバラバラであったITをみらか統一システムにする必要があった)と企業理念に寄与するIT/Digitalサービスの提供を設定した。ITのあるべき姿「シンプル・早く・育つ」を実現するためにIT Strategyとして「価値の創造」「コスト最適化」「インテグリティ」の戦略を立て、2020年には以下の5つの目標実現を掲げた。
- ITがリードし、ITを活用する新規ビジネスの立ち上げ
- 対応速度の向上
- プロジェクト成功率を100%
- オーディットでテクニカルな指摘ゼロ
- プロジェクト:オペレーション比を7:3
この目標を実現するために3つのステップに分けて実施している。
Step.1 ITへの信頼感の獲得
Step.2 業務との一体感とメンバーの“思い”の醸成
Step.3 “思い”を形にして患者に健康を届ける
現在Step.2の段階で、今後Step.3を実施していく。
Step.1 ITへの信頼感の獲得
過誤が許されない条件下で「何もするな」が常態化していたITメンバーの意識を解き放ち、「何を言ってもよい」「何をしても良い」というチーム作りを行い、業務部門から「ITは変わった」と言われることを目指した。そのために、ITメンバーに「現場理解と顧客視点」「スピード」の意識を持ってもらうためにトレーニングによる底上げを実施した。トレーニングカリキュラムとして
- ベーシック (会話が重要という意識植え付け)
- メンタリング
- 状況対応リーダーシップ
- プロジェクトリーダーシップ
を設定し、進めている。またチームビルディングのためにチームメンバーの家族を含めたイベント、船上パーティやBBQを開催。また組織面では部を案件推進母体と位置付け、部長への権限移譲を実施した。
Step.2 業務との一体感とメンバーの“思い”の醸成
業務部門との一体感を強めるため、ビジネスパートナー制を敷き、業務との窓口を明確にして、IT自らが業務の改革に踏み込めるようにした。現在、シェアードサービス、顧客サービス開発、基幹システム、検査システムの4つのビジネスパートナーが機能しており、業務から頼りにされてきている。
Step.3 “思い”を形にして患者に健康を届ける
Luminaと呼ばれる人間性を可視化できる分析ツールで“己を知り、仲間を知る”を実施した。金子氏の“思い”として、人間のライフステージで、検査で分かったことを治療や健康に結びつける健康情報サービスの実現、生活者ライフログのプラットフォーム化がある。このように、チームメンバーが求められている活動範囲を飛び出して、自らの“思い”を実現するパワーを身に着けることを目指したいと金子氏は熱く語る。そのために「GRIT:やり抜く力」からアンジェラー・リー・ダックワースの言葉を引用した。「才能x努力=スキル」であるが、スキルの上にさらに努力をし「スキルx努力=達成」であり、それが「成長」につながる。これが出来るチームを目標にしたいと締めくくった。
清水 滝夫(BSIA運営委員)