第61回例会報告:公文教育研究会「KUMONのグローバルシステム『KiDS』の高速開発と短期導入 」

第61回例会報告

かつて例会で講演をして頂き今回は2回目の講演となる、株式会社日本公文教育研究会の鈴木氏に笑いを交えて、和やかな雰囲気の中でお話をして頂いた。過去2回講演を行った事例は無く、今回は初の試みとして取組活動のその後となる、グローバル展開をどのように行ってきたのかについて話して頂いた。

 

icon-check-square-o 入社後の取り組み

最初に公文に転職した時からシステムを構築するまでの経緯をお話頂いた。入社当時に驚いた事として、要件定義を外部に丸投げし、プログラムを書ける人が1人もいない環境でシステムを運用管理している状況であった。また、ユーザ部門がベンダーと直接やり取りをして、システム部門が何も知らないということも発生したそうだ。

会社から鈴木氏への要望として、外部からの目線として気付いたことを何でもいいから書いてくれと言われた。3ヵ月間書き続けてノート一杯に書き、システム部門のチーム内で話し合い課題を一枚の絵に描いた。描いた中から実際に着手する内容を決めて活動を開始した。

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icon-check-square-o システム導入

実際に行った例としては各教室で作成する紙の報告書にフォーカスを当てた。紙の報告書を送るのではなく、Web画面から入力することで、手書きの紙を各教室から本部に送り、入力する部分を削減するシステムを構築した。入力コストとして1億円掛かっていたが、紙からシステム化することで7,500万円削減することに成功した。現在は更にコスト削減を実施している途中であるという。なぜ途中なのか。それは、日本版のシステムを入れて10年経つが紙の文化からWebへと完全に切り替えることは出来ていないからだ。一部の根強い紙のファンが居るためである。因みに、海外は導入して1年で紙を前面撤廃してWebに切り替えることができたという。

他にも新しく教室を開く為にどの場所に作るべきかを地図を活用している。また、現在の教室にどの場所から通っているかを可視化すると、面白いことにすぐ近くに教室があるにも関わらず、遠い教室に通う生徒が多い事に気付いた。これに世帯年収、新たに建設されるマンションの情報を引き当てると、どの辺りに新しい教室を開けば良いのかが見えてくる。このシステムを導入して効果が明確に出ている点として、毎年1,000教室減少するが、適切な場所に教室を戦略的に開くことで生徒数は増加している。

icon-check-square-o グローバルシステムの導入

世界中のシステムを新しく一本化する経緯として、そもそも教材は世界共通で利用しているため、システムも一本化すべきであるという考えからプロジェクトを発足した。最初に取り組んだ事として、世界中からシステム担当者を集めて直接会い、『生徒を中心としたシステムを構築する』という明確な目的を作り、システム全体の計画と体制、役割を決めて進めた。また、経営層に対して何度となくシステム導入の説明を実施し、会社の中期経営方針に入れ込むことで会社全体の活動であり、システムだけが勝手に進めているものではないことを社内に対して発信し続けた。システム名は「キッズ」と分かり易い名前にしてロゴを作り、社内でのブランディングをしっかりと実施したのである。世界中の関係者を説得するために年間120日出張したが、システム投資の金額と比較すれば安いものであるらしい。また、テレビ会議や電話、メールとは異なり、現地でフェイストゥフェイスの会話を行うことがとても重要であることを実感したそうだ。更には、関西弁が激しいため通訳を通して会話してもうまく伝わないことも多々経験した。そのため、たどたどしくても直接英語で会話を行う方が結果良かったと言う。このようにして9ヶ月でシステムを完成させて世界中に浸透定着を行った事例である。

筆者感想

鈴木氏の凄いところは、システムを作り運用に展開したことを簡単に出来たかのように伝えているが、実は苦労の色が幾つか見え隠れているところにある。話し方として笑いを交えて伝えているため、いとも簡単に成し遂げているように聞き手として感じてしまうが、実は裏で様々な方々に対して説明をして理解を求めたに違いない。多分。

 

icon-check-square-o 質疑内容

Q.現場の先生の意識は紙からwebに変わった時の意見は?教育は?
A.海外は100%浸透した結果から見ても大好評だが、国内の浸透率は100%ではないが便利になったと評価を得ている。システムの人間が事務局に教育を行い、事務局が全国の先生に教育を行った。

Q.高速開発とあるが9ヶ月で開発をどのように行ったのか?体制は?
A.画面の絵コンテを鈴木氏1人で全て作成した為に、手戻りも無く短期間で開発を行うことができた。また、業務プロセスを描き大きいところから細かい部分までを押さえた。開発はウォーターホールではなく、プロトタイプ開発を採用したことで短期に完成できたと考えている。体制としては、システム部門とベンダー実施し、利用者を体制に入れることなく進めた。

Q.国内での開発は内製化しようと考えていたのか?
A.社内では開発できる人とスキルの問題があった為に外部へ開発を依頼した。

Q.内製化は会社の方向性として行っているのか?人材育成面ではどうなのか?
A.M&Aした会社毎に文化が異なる。海外は内製化の比率が高く日本は低い状態だったが、組織のトランスフォーメーションを行う中で、内製化の比率を日本も含めて高める方向で進めている。ファンクション毎の標準的な業務を決めているため、必要な技術や手順はグローバル標準化されており習得することができる。

 

坂本克也(BI-Style株式会社・BSIA運営委員)

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