第5回例会報告:東京海上日動火災「情報システム内部監査から見た『ユーザ主体のシステム開発』」

第5回例会報告

システム開発のオーナーシップ

8月24日に第5回システムイニシアティブ研究会(例会)が開催されました。
今回のテーマは「情報システム内部監査から見た『ユーザ主体のシステム開発』」。講師の東京海上日動火災保険株式会社の田中さんは、内部監査部として、客観的な立場でユーザーが主体的にシステム開発のPDCAをまわてしているかを監査します。

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講演のポイントは2つ。

    • アプリケーションオーナー(アプリオーナー)制度
      アプリオーナーによるユーザー主導のシステム開発のしくみと、それががあまねく行われているかをみる監査。
    • 情報システムの予防的監査
      システムができてからではなく、基本要件定義段階でPMBOKを着眼として、進行中のシステムがコスト・納期・品質を守り開発できるかをみる監査。

参加者の方々の興味は、システム開発のオーナーシップを握るアプリオーナーそのものと、アプリオーナー制度を続けていく秘訣はなにか、に集中しました。

icon-check-square-o アプリケーションオーナー(アプリオーナー)制度とレビュー制度

2002年から導入。アプリオーナーが「こういうシステムがほしい」という文書を書き、情報化委員会(システム開発案件の実施を審議・決定する機関。各部の部長で構成)に起案。システム企画部門とともに要件定義をし、システム開発会社がシステムを開発または内製、アプリオーナーは欲しかったものができているかをチェックします。
アプリオーナーのもとで、プロジェクト計画レビュー、SA(System Analysis)完了レビュー、UC(ユーザーインターフェイスとテストケース)完了レビュー、テスト計画レビュー、サービスイン承認レビュー、運用レビューなど、すべてのレビューが行われます。

アプリオーナーの役割

  • システム化の目的と期待効果の明確化
  • IT投資の最適化
  • システム化ニーズのまとめ
  • 開発の優先順位付け

アプリオーナーの責任

  • システム開発への参画
  • 予定通りの要件確定、システムテストへの参画、ステム開発工程終了の承認
  • ユーザーへのシステム提供と活用促進 (利用者への教育、マニュアル作成等)

マニュアルをつくるということは、システムテストができるということ。

どんな人がアプリオーナーになるか

  • 商品開発担当、営業推進施策立案担当など、ビジネスを熟知し、システムを実際に活用する業務担当の人
  • 30-40代
  • 専任が原則。3ヶ月ぐらいのプロジェクトでは1-2人が業務の半分を投入。6-9ヶ月では1人が専任。

アプリオーナーの育成方法

会場から、「役割と責任を全うするには能力をもっていないといけないはず。どう育てるのか?」という質問がありました。
アプリオーナーには、ビジネススキルのあるメンバーが選ばれます。その人にシステム寄りのスキルが身につくよう、年に2回、それぞれ1週間ほど、本社業務から離れて行う「アプリオーナー研修」で座学と実習をするそうです。毎回各部から1名ずつ程度、すぐにアプリオーナーになるわけではないけれど、いつかは経験するだろうと思われる人が受講します。CIOが社長になるなど、もともと経営がシステムに関与している企業文化もあり、アプリオーナーは業務部門の中の1つのキャリアパスとなっているそうです。

システム部門、システム開発会社の役割

IT企画部(本社情報システム部門)は、年4回開催される情報化委員会の運営、開発・運用のルール作りを行います。システム基盤の開発・メンテナンスプロジェクトに関しては、IT企画部がアプリオーナーになります。また、IT企画部は、コストの考え方をアプリオーナーに教え、システム案件起案について相談にのります。
システム開発会社は、アプリオーナーからの要件に対して「それではパフォーマンスが出ませんよ」といった指摘、「こうした方がいいのでは」などの提案をします。

icon-check-square-o 会社が大きいからできる?

参加者から「アプリオーナーはとてもいいしくみ。でも、会社の規模やシステム予算に差があって、自社におきかえると実践できるかどうか・・・」という声がありました。
田中さんは、「規模の違いは確かにある。専任にできるかどうかはわからないが、業務部門からアプリオーナー的な役割の人を出してもらって、小さいプロジェクト1つからでも始めては。」と語りました。
ファシリテータの田口さんも、「システムイニシアティブへの重要な一歩」として、ミニマム要件を

  • アプリオーナーを任命すること
  • アプリオーナーの責任はいくつかあるが、ユーザーへのシステム提供と活用促進の責任を持つこと

とまとめられました。「もっとも、一歩を踏み出すだけではなく、教育が必要」という声に対しては、田中さんは「研修でなくても、OJTでやれる。まず「これは」と思う人を1人、任命すること。」と答えました。

木内会長から最後に「規模に関係なく取り入れられる考え方」として、次のように話されました。

  1. 誰が使うシステムなのか、きちんと位置づけをすること。
  2. システムを利活用面からみるということ。作るのが重要なのではない。
  3. 経営層、マネージャクラスが関与すること。
    これを少しずつでも目指すこと。経営層がシステムについて議論することが重要。会社がそれで動いているのだから。
  4. システム開発に関する思想・理念をもつこと

歴史ある、完成されたしくみも、第一歩があったはず。理念を大事に、自分たちなりの一歩を踏み出してみることが重要なのだと思いました。

吉田太栄(システムイニシアティブ協会事務局)

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