第6回例会報告
9月20日に第6回システムイニシアティブ研究会(例会)が開催されました。
今回のテーマは「丸投げからの脱却-IT部門内教育とベンダーとの関係改善について」。
講師は、日本公文教育研究会の鈴木さんです。
鈴木さんが銀行のIT部門から転職された頃、日本公文教育研究会では、アウトソーシングでIT部門の人員を大幅に減らそうとした上、システムトラブルも重なり、アウトソース先のベンダーがイニシアティブをとる状態になっており、IT部門は
- プログラムを書ける人がひとりもいない(基礎知識を勉強した人がいない)
- 利用部門からベンダーに直接連絡してシステムを改変したりしている
- 要件定義やレビューもベンダーに丸投げ
- メンテナンスばかりで、新規の開発案件がない。
など、「IT部門っていったい何?」と思うほど、形骸化してしまっていたことに驚かれたとか。
そこから、抜本的な改革が始まりました。
まず最初に行ったことは、メンバーと相談しながら社内のさまざまなシステムの改善ポイントを洗い出し、「1枚の絵」にすることでした。それを常に共有し「次はこれをやっていこう」と同じゴールを目指すようにされました。
その1枚の絵の中で、みんなが「これをシステム化すれば大きな効果が出るだろう」とわかっていながらこれまで手がけていなかったシステムの開発に着手し、成果を出して社内からの信頼を得る一方、OJTでIT部門メンバーのモチベーションをアップさせ、自分が関わる案件の品質へのこだわりや、コスト意識の向上をはかっていかれました。
IT部門の社員教育
1.公文式の部内勉強会(すでに100回以上実施)
週に2回、昼食の休憩の前に20分間、部内勉強会を開催。
情報処理試験の問題を数問、数分で解答させ、15分で解説。
2.新人の日報にリーダーが毎日必ず返信をする
3.5人月以上の開発案件に関しては、全員でレビューし、レビューの勘所を養う
4.要件定義書は7回突き返す。最初から指摘はしない。自分で考えてもらう
5.システムの利用部門(現場)に話を聞きにいかせる。
鈴木さんは、1の講師、2の返信をずっと続けています。
また、5の前には、鈴木さんが先回りして現場の声を聞いておき、メンバーがポイントを聞き出せているか確認をするなど、とてもきめ細やかなフォローをされています。
ベンダーとの関係改善
1.ユーザー部門から直接ベンダーに連絡しない社内ルール
もしユーザーから直接ベンダーに問い合わせがあっても答えないよう、ベンダーとのルールづくり
2.顔の見えるレビュー
オープンな場所でレビューを行い、「密室での議論」にしない。
下を向いて資料を読まないようにして、顔の見えるレビューを行う。
3.ベンダーのオフィスに出向いて、関係者の様子を見る
4.システム監査の「指摘事項」をうまく使う
テスト方法や工数見積もりについて、「指摘があったからこうしてね」ということで依頼を通しやすくする。
5.すべての案件をメインのベンダーに任せるのではなく、特定の分野が得意なベンダーを探し、一部はそこに任せることによってメインの ベンダーと緊張感を保ちつつ、コストを抑える。
ユーザー主体開発を行うためには
- まず部門内の意思統一を図る:これに「1枚の絵」が役立つ。夢を共有する。
- 一に勉強、二に勉強:ベンダー、ユーザーよりも知識をもっているように
- 社内コミュニケーションを積極的に:「場」が重要。落としどころはもちつつ、話を聞く。
- ユーザー部門の意見をいったん留め置き、本当にやるべきことを話し合う:
- 長期的な視点、鳥瞰的な視点をもつこと。
「会社の利益にならないユーザーの依頼には、『NO!』と言わなければならないが、『NO!』と言えるのは、IT部門のメンバーとユーザーとの間に良好な人間関係があればこそ。
だから、コミュニケーションが重要」と鈴木さんはいいます。
ベンダーとの関係も同様ではないかと事務局は思いました。
ベンダーのオフィスに飛び込んでいってレビューをするなど、コミュニケーションを常にとる一方で、交渉力を身につけ、ユーザーの真のニーズをきちんと把握できているIT部員こそ、「それはおかしいんじゃないの」「このレベルまでやってください」と率直に言え、ベンダーもよい提案をできるのではないでしょうか。
改革は楽しんで
最後に、木内会長からコメントをいただきました。
「鈴木さんは軽く話しているが、裏で相当な努力をしている。しかし、改革を楽しんでいる。それがいい。」
「一方で策を弄している。やるべきことをちゃんとやるのが、改革の基本。1枚の絵を描く、経営者との関係を構築する、現場とコミュニケーションをとる、競争による緊張感を持ち込んでベンダーマネジメントをする、など。」
議論の途中でも「OJTを続ける鈴木さんのモチベーションは?」という質問がありましたが鈴木さんがにっこりと「楽しいから」とおっしゃったのが印象的でした。
吉田太栄(システムイニシアティブ研究会事務局)