BSIを成功させる「3つの法則」とは?

田口さん2017執筆者PROFILE
田口潤 株式会社インプレス 編集主幹

BSIを成功させる「3つの法則」とは?

BISAが毎月実施している研究会(勉強会)は通常、2時間半である。基本的に前半は、講演を引き受けて頂いた方によるレクチャー。多くの場合、BSI(ビジネスシステムイニシアティブ)を実践している情報システム部門責任者の話を聞く。それが終わると、参加者が5、6人のチームを構成して議論し、出てきた疑問や質問を講演者とやりとりするQ&A、という2部構成で進む。議論をすることで参加者同士のコミュニケーションがとれるし、疑問や質問の練度も高まる仕掛けだ。

 研究会のテーマはシステム開発、データ分析やAI活用、ベンダーマネジメント、IT人材育成など多彩で、毎回異なる。とはいえ、CIOなど企業の情報責任者、それにIT部門がベンダー依存から脱却し、主体的に情報システムを構築・運営・活用するには何が必要かを探るという基本は変わらない。この基本的な点について、1月の研究会で結論というか、有力な仮説が提示されたので、ここで報告しておきたい。

 提示したのはBSIAの木内理事長である。1月23日に開催したウシオ電機 経営統括本部 IT戦略部門長を務める須山 正隆氏を招いた研究会において、まとめのコメントで次のように語った。「昨年11月の研究会で、SGシステム社長の谷口 友彦さん(SGホールディングス執行役員 IT戦略担当)の話を聞きました。今日のウシオ電機の須山さんの話と合わせると、成功の法則が3つあることが分かります。第1は経営トップと密な関係を築き、維持すること。2番目はガバナンス(可視化)、それに組織や人材、内製のあり方に関して基本を重視すること。最後は、現場力を引き出す活動をする、つまり現場にCIOが入っていくことです」。多少、簡略化しているが、おおむね、こんなまとめだったと記憶している。

 それぞれ、端的に解説しよう。まず1の経営トップとの関係について。SGシステムの谷口氏によると、SGホールディングスの経営陣とITについて議論する場が月に2回、2時間あるという。「ITの重要性について経営が理解してくれている。この場でSGシステムの若手がホールディングスのトップと話せることも大きい」(谷口氏)。経営の理解もさることながら、月2回もの頻度で経営が関心を持つ取り組みやテーマを出せるSGシステムもすごいと思う。

 一方のウシオ電機では、「ITの進展状況を知らせる40ページのWordファイル毎月、幹部に送っている。差分もあるので全部が新規の内容ではないが、これを通じて理解を促したり、失敗に寛容な文化を作れたりしている」(須山氏)。例えば、これは2番目のガバナンスにも通じるのだが、須山氏はIT投資を5つに細分化して経営陣(や部下)に説明している。具体的には、①新規事業や製品サービスを支える戦略投資、②業務品質向上やグループシナジーのための情報活用投資、③コスト削減、生産性向上に資する業務効率化投資、④サーバーネットワーク、セキュリティなどシステム基盤投資、⑤法制度対応などの維持投資、である。こう並べるとそれぞれ当たり前に思えるが、素人には分かりにくいIT投資をうまく説明していることは確かだろう。特に①については「経営陣や事業幹部と密に情報共有している」(須山氏)と話す。

 2番目に関わることだが、こうしたIT投資におけるガバナンスの姿勢、つまりファクト(数字)をベースに経営陣の理解を得て様々な手を打っていくやり方は、SGシステムも同じである。運輸会社であるSGホールティングスでは、例えば「荷物1個の売上高は分かるが、コストが見えにくい」という問題があった。荷物の預かり、配送、仕分け、配達など多くの工程を要するため、コスト構造が分かりにくいのは当然なのだが、SGシステムはこれをトレースして可視化する仕組みを作った。「同じ顧客企業でもどの方面の配送は収益になり、どの方面はそうでないのかが明らかになった。それに基づいて運賃をコントロールする議論をできるようにした」(谷口氏)。

 人材マネジメントについても基本をおろそかにせず、例えばウシオ電機では「ストラテジスト、ビジネスリーダー、アナリスト、アーキテクト、プロジェクトマネジャー、アプリケーションエンジニア、テクニカルエンジニア、オペレーション」のように人材像を明確化しているし、SGシステムもスペシャリスト制度を作るなど、スキルアップや仕事へのモチベーションを引き出す手を打っている。

 3番目の「現場に入る」はどうか?製造業の場合、エンタープライズITと工場のITは担当が違う場合が少なくないが、ウシオ電機は違う。製造現場のIoTをIT戦略部門が担っているし、「製造現場の製造設備の仕様決めの会議に、IT部門が参加する。データ活用を前提とした製造設備にするために、”このセンサーを入れたい”といった要望をだしている」(須山氏)。製造現場をデータドリブン(駆動)にトランスフォームするべく、音頭をとっているのだ。

 一方、SGシステムは、トラックの配送ルート最適化やトラックへの荷積みの効率化、そのための自動物流倉庫「AUTOSTORE」や自動梱包機「CMC」の採用/利用をリードしている。まさに現場に入り込んでいるわけだ。日々、膨大にやり取りされる紙の伝票(送り状)も現場で工数がかかっている難題の1つ。これに対してSGシステムはAI OCRを自社で研究開発し、今では99.95%という高い読み取り精度を達成しているという。「4つのAIエンジンでチェックすることで、人の場合の99.8%よりも高めることができた」(谷口氏)。AI OCRソリューションを提供する外部企業に委ねず、自らR&Dするところまで来ている。

 推察頂けると思うが、これらは研究会で語られた多くのエピソードのごく一部に過ぎない。ほかにも様々なエピソードがあったが、ともあれまとめると、両社とも上記のような取り組みを通じて経営陣や現場の信頼を獲得し、IT部門スタッフのモチベーションを引き出しており、その共通点を抽象化すると木内理事長が指摘した3点になるのわけだ。そして、ここまで来ると、文字通りのビジネスシステムのイニシアティブに繋がってくる。

 具体的には、両社ともデジタル化の進化を好機と見て、より直接的な事業貢献に向かおうとしている。SGシステムの場合、TV CMで知られる「GOAL」はIT/デジタルがあってのことだし、詳細は省くが荷物とトラックのマッチングサービス「TMS(Transportation Management System」の展開にも着手している。ランプやLED、EUVといった光源や光学機器のメーカーであるウシオ電機は、機器の販売に加えて、機器をサービスとして提供するサービタイゼーションに乗りだそうとしている。

 両社ともずっと以前から見てきた取り組みをしていたわけではない。谷口氏は「2005年から2017年をベンダーロックインの時代だった」と話す。ウシオ電機も同じで、2014年頃まではベンダー依存が強く、戦略も提案力もない組織だったという。1年やそこらで変わることはできないにせよ、数年かければ変わり得ることを両社のケースが証明している。

研究会・シンポジウム告知

成迫剛志

第148回研究会(例会)12月17日開催

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