第69回例会報告:高橋範光氏 「デジタルトランスフォーメーション時代のデータ活用の在り方について考える」

第69回例会報告

6月30日、第69回の例会が開催されました。今回の講師は、株式会社チェンジ執行役員 Analytics & IoT担当の高橋範光さん。講演タイトルは「デジタルトランスフォーメーション時代のデータ活用について考える」でした。
現実世界と仮想世界の境界を失くすことで、ITによる生活や企業、社会をあらゆる側面からより良い方向に変化させる「デジタルトランスフォーメーション」。その変化を後押しする環境は既に整いつつある中、これまでのIT活用と、デジタルトランスフォーメーションの違いを理解し、その中核にある攻めのデータ活用について、国の施策と民間の事例なども踏まえながらどのように進めるべきかについてお話いただきました。
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  SoRからSoEへ

世の中のシステムを大きく分けると2つ存在する。1つ目はSoR(System of Record)これは記録をするためのシステムであり、具体的には基幹業務システムを指す。2つ目はSoE(System of Engagement)と呼ばれておりデータの組合せ、可視化、リアルタイム予測を行い曖昧な状況への対応を行うシステムである。具体的にはリアルタイム性の高いデータをセルフサービスBI(ビジネスインテリジェンス)によってデータの深堀を行うものである。また、時間軸を重ねることでデータの相関関係を表現することも実現できる。世の中はSoRからSoEへの大きく変化していると高橋氏は感情豊かに説明した。一例として、今までのBIは過去のデータを用いて仮説検証を行い、週、月単位にサイクルを回していた。しかしながら、昨今のセルフサービスBIは現在発生しているデータを素早く取得して可視化することを得意としている。つまり、過去を見ることから今を見る事へと大きく変化してきたことが今までと異なる点である。しかも、システム部門の専門家に依頼せずに、業務担当者自らが自由にデータを収集して即座に分析や可視化を行う事が可能となる。

  最近のSoE事例

データの組合せの例として、コンビニのとある商品の購入人数とリピート率をマトリックスで分析した時に、購入人数は少ないがリピート率が高い商品を発見することができた。更に、分析すると特定女性のリピート率が高いことが判明した。特に1割のヘビーユーザーが6割の売上を締めているという驚きの事実が見えたのである。この商品は他の店には存在しないため、欠品すると機会損失になるということも判明した。よって鮮度のあるデータを収集して幾つかの軸で検討することで、将来性のある商品を発見できた事例である。つまり、データを可視化して気付けるヒントから考え出すことが出来れば、統計解析などの難しい商品やロジックは不要になるのではないかと高橋氏は声のトーンを一つ上げて説明した。確かに、単純なExcelの表やピボットテーブルを作成するだけでも十分に偉力を発揮した経験を筆者も経験したことがある。

別の事例として、店舗に設置したカメラから来店者数、属性等からヒートマップ図の作成が可能なサービスである。画期的な事として、今までの常識では購入した人をターゲットとして考えていたが、実は購入せずに帰る人が今回のカメラの情報から4割も存在することが判明した。つまり、今までは購入者のニーズを分析していたが、実は購入せずに帰った人のニーズが分かれば売上は上昇するはずであるという新たな仮説を考え出すことができる。また、未購入者はどの場所を回遊して店を出たのかが分かれば品揃えを変える大きなヒントになる。このようなデータをセルフサービスBIで分析することだけでも大きな価値を見出すことが出来るのではないだろうか。

  日本が本気で取組み始めたこと

国が進めている事例としてRESAS(https://resas.go.jp/#/13/13103)がある。これは官自治体でデータを可視化し、経済産業省が地域経済を分析する目的で可視化システムを構築したものである。課題が散在している中で何処に投資して地域を活性化したらよいのかをデータを見て判断することを狙いとしている。今回日本の複数の都道府県の導入支援を高橋氏が行った時に得た経験がある。それは、地方に実際に足を運んでデータのから見えた課題と、自分の目で見た課題を比較することで新たな気付きや、課題の根本的な部分を見つけ出すことが出来たと胸を張って述べていた。事務所でデータだけを見て判断をしたのであれば、気付かずに見逃していたに違いない。

RESASのデモンストレーションでは、宮崎県の日南市と宮崎市が観光スポットのデータを組み合わせて仮説検証を行うケースの紹介と、福島県の中学校が分析を行った事例として原発以前と後で観光に関する提案を行い実施した事例である。今後の地方創生を提案する時は『必ず』RESASのデータを分析して提案することが義務付けられるようである。確かに、経験や何となくの勘で物事を決めて実施しても成功するとは限らない。一番重要なのはデータである。数字に基づいて現状を把握し、仮説等をしっかりと考えて実施することがいつの時代も大切なのではないか。そうすれば実施後の数字の変化を追うことができ、効果測定も検証可能になる。このような動きが全国で既に展開されており、学生の中でも提案がなされていたことに筆者も感銘を受けた。民間企業でもデータ経営が難しい状態の中で、RESASは活用次第で将来の可能性を感じさせてくれた良い機会であった。

  海外の面白い取組み

スポーツ観戦の事例として、アメリカンフットボールを挙げられた。RFIDタグを人に付けてリアルタイムに動きを可視化する。画面を見ながら補足的なデータを表示して観戦できるものである。また、アメリカのバスケットボールNBAの事例も面白い。昨年優勝を飾ったゴールデン・ステート・ウォリアーズのスマートフォンアプリの事例である。一般席を購入した人に対して当日空いているアリーナ席をアプリが提案してくれる。アリーナ席は選手を間近で観戦できるため迫力があり、応援している選手を間近で見られるとなるとつい購入してしまう。当日の売上だけで15倍に膨れ上がるそうだ。これもリアルタイムで空席状況やキャンセル状況を把握して提案する事例である。筆者もNBAは大好きなため、応援しているチームの特定の選手を間近で見れるのであればお金を出したい。とても人間の心理を付いたマーケティング戦略である。

  これからどうなるのか

時代は確実にSoRからSoEへと変化している。しかしSoRは完全に無くなるのだろうか。第三次産業革命ではコンピュータの出現によりif-then文を記述することで複雑な処理が可能になった。その後の第四次産業革命はif-then文を記述することなく過去の学習結果を踏まえて柔軟に対応できるAIがこの世を取り巻くに違いない。過去に遡ろう。第二次産業革命時のニューヨークでの移動手段は馬車であった。その後の産業革命で馬車から全て自動車に置き換わることになる。馬を乗りこなす人の仕事は無くなったが、自動車を運転する技術を身につければ良く、全く仕事が無くなった訳ではない。つまり、人間が柔軟に対応すればいいだけの話である。一度自動車の文化が出来上がると馬車の文化に戻ることはない。結論としてSoRからSoEへの変化は確実に生じるが、SoRの規模が縮小するかもしれないが完全に無くなる訳ではない。

従来のSI業界は変わらないといけない。システム開発を人月工数で儲ける時代ではない。なぜなら、共にビジネスを作り上げていくパートナーとして取り組むことが最も重要であり、ビジネスで得た利益を分配することが本来のビジネスモデルの姿ではないかと高橋氏は強いメッセージを残して話を閉じた。

  質疑内容

Q.過去においては経験と勘のある人が輝いていたが、RESASが出てきて同じ様なことが出来る時代になってきた。その中でも差を付けて更に秀でるためには何をしたらよいのか。

A.システムだけに頼ることなく、どれだけ現場を見てより良い仮説を立てられるのかが重要なポイントになると考えている。

Q.現在データ分析のパッケージを利用している。小売店舗での成功事例を聞きたい。買わない人の行動分析をしてるのか。

A.会員の顔写真を登録してリピート客かどうかの判断をしている。また、顔の表情の2つの軸で接客対応を行っている。買わない人の行動はレジを通過していないためカメラのデータとの組合せで検証する。通った場所が興味関心のある場所であろうと仮説を立てられる。

Q.AIを取り入れて実現させるにはデータが重要かと思うが、社内の事業部門の壁を越えてデータの共有をどのようにしたらよいのか。

A..データを組み合わせた成功事例を販売して市場を作らなければならないと考えている。究極はオープンイノベーションの考え方が浸透して社内の事業部間、企業間のデータを生かすことができればと考えている。

 

坂本克也(BI-Style株式会社・BSIA運営委員)

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