第71回例会報告:矢島孝應氏 「次なる100年を拓く、ヤンマーグローバルIT戦略」

第71回例会報告

8月22日、第71回の例会が開催されました。今回の講師は、ヤンマー株式会社 ビジネスシステム部 執行役員 部長 矢島 孝應さん。講演タイトルは「次なる100年を拓く、ヤンマーグローバルIT戦略 A SUSTAINABLE FUTURE ~テクノロジーで、新しい豊かさへ。」でした。
ヤンマーでは、創業者・山岡孫吉の想いである「人々のくらしを豊かにする革新」のため、次の100年に向けて、未来の4つの社会(省エネ、安心な生活、食の供給、暮らしやすい社会)を目指しており、創業から100年間で培ってきた商品力を支えるIT戦略についてお話いただきました。また、新しい豊かさのため、お客様の期待を超えるサービスを提供する次世代テクノロジーSMARTASSISTについてもご紹介いただきました。
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   略歴

矢島孝應氏は,松下電器,三洋電機等の経て,現在はヤンマー株式会社のビジネスシステム部の執行役員を務められている。これらの経歴を通じて,IT革新による経営革新を一貫して推進してこられた。
今回は,ヤンマー株式会社での事例ということで,「次なる100年を拓く、ヤンマーグローバルIT戦略 A SUSTAINABLE FUTURE ~テクノロジーで、新しい豊かさへ。」と題してご講演をいただいた。

   ヤンマーブランド

日本ではヤンボーマーボーでおなじみだ。しかし,グローバルでは,ブランドにバラツキがあり統一されていないことが問題であった。そこで,ブランドコーディネーター,デザイナーに著名な人物,フェラーリのデザインに関わった人物などに依頼をして改革を行った。
企業ブランドだけでなく,商品のデザインも一新した。デザインを変更することで商品に対する憧れは出来上がった。
そして,更に商品の所有者が誇りやステイタスを持てるよう,最高のサービスを実現していくことがプレミアムブランドとしての価値である,という信念のもとブランド化を進めていった。

   グローバルIT戦略

商品が変わっても,従業員の意識,顧客へのサービスが伴わなくてはいけない。そこで,ITを駆使した中期IT戦略を立案した。
その内容は,国内中心・メーカー視点・個別最適の情報システムという従来のものを,グローバルな全体最適システムへと進化させることが肝要である。
そのために,経営者と複数の現場部門,IT部門,この3つが三位一体となって取り組む必要があった。
当初,このグローバルIT戦略において,経営者から見て期待と不安が混在した状態であった。IT化の必要性は理解できる。だが,より具体的な内容が求められた。
IT部門からみた経営層も,同様の期待と不安がもちろんあった。
これらのギャップは,どこの企業でも同じものであったかもしれない。
そこで,情報化戦略の考え方をフレームワークとしてまとめ,その内容を共有してことにあたった。

   情報化戦略のフレームワーク

フレームワークは,大きく,お金・人・ものに分けた。この3つの切り口で,出来る限り具体的な方針を立案した。
お金に関しては,ITの投資の額を,売上高の比率で明確な数値として設定することや,ITサービスの受益者を明確にしてその受益者に課金するシステムなどを行った。
人に関しては,事業の経営会議,企画会議にIT部門が必ず出席するようにした。また,プログラミングからプロセスコンサルとしての人員のスキルの移転なども行った。
ものに関しては,業務に関して,そのプロセスオーナー,情報オーナー制度の導入,ITリテラシ教育などを行った。

   三位一体の推進体制

ベースは,EA(Enterprises Architecture)である。これを経営・事業部門・ITの三位一体と融合し推進方法を立案した。これにより,EAの各段階で経営層,事業部門・ITが何をやる必要があるいのか,その責務は何かを明らかにした。
これらにより,三位一体の協業と,備え,実践として分けて考えることができるようになった。
情報の統合は,個社レベル,事業レベル,全社レベルという統合レベルがある。これを,経営,業務,情報プロセスのマトリックスで表し,アプリケーションのあるべき姿を明らかにした。
つまり,なんでもかんでもERPで統合ではなく,統合的に扱わなくてはならない箇所,そうでない部分にメリハリをつけることができた。
IT戦略におけるコストの考え方としては,効率化,省力化を中心とした社内コストの削減と,売りを作る攻めのIT,この2つを両立することが,IT部門の果たすべき役割だ。

   具体的な改革の取り組み

コンカレントな商品開発の取り組みとしては,3D−CADを推進している。プラットフォームとしては,ヤンマーブランドを世界に伝えるために,バラバラだったHP等のコンテンツを統一的に見直した。リモートサポートセンタでは,24時間365日見守ることのできる仕組みに取り組んでいる。
また,働き方改革においては,全社的な共通ルールの策定,コミュニケーションツールを導入しそれを最大限活用することに取り組んでいる。

   農業を取り巻く環境や技術の変化

2050年には,世界の人口は1.4倍の96億人になると予想されている。そこに食料やエネルギーを供給すること自体がかなり難しくなるだろう。
対して日本は,2050年には,現在の人口の2/3になるだろうと予想されている。国内農業は,更に人手不足が深刻化することだろう。
農業機械は,1960年台にトラクターや耕うん機などが機械化された。これはもちろん革新的であった。これに更にICTを融合させて技術革新をはかった。具体的には,2013年より開始したSmartAssistだ。

   SmartAssist

農業機器に対して,IoT,M2Mの技術を組み込み活用を狙う。これによりお客様の農業経営をサポートし,安心を提供している。ここには,ICTを核とした新しい農業の形がある。
具体的には,各農業機器が,ある場所で,リアルタイムで何を行っているかという情報をキャッチする。そして,それを24時間,365日見守る。このリモートサポートセンターは2015年から稼働している。
従来のサプライチェーンでは,各部門のプロセスの連携として定義してきた。そして,その中での最適化を目指してきた。しかし,この24時間,365日のリモートサポートセンターにより,そのプロセスは,お客様の農作業にまで拡大された。
具体的には,土作り,田植え,除草,収穫などだ。ヤンマーだけのサプライチェーンにとどまらずお客様のプロセスをも取り込むためには,もちろん全ての製品がヤンマー製である必要があるのだが,この点も含めてより幅の広い提案ができるようになった。

   iFarmer

iFarmerでは,抵コストでお客様が生産活動できることをサポートする。具体的にはロボットやドローンの推進である。農業は慢性的に人手不足であるが,これを解消し,更に迅速化も実現していきたい。
その中で,ドローンの利用については,田畑を上空から撮影することで,その収穫状況を可視化することが可能になっている。これまで勘に頼っていた収穫タイミングを最適化するこができるようになった。

   質疑応答

質問:ITを利用してのサービスは,どのように設計しているのか?

ITスキルやテクノロジーから入るとうまくいかない。また,実現したことがあってもそれがテクノロジーで実現できるかどうかわからない。この両面が融合して新しいサービスが実現する。そのために事業部門のITリテラシの向上や,IT技術者が興味をもった分野で実際にやってみる機会と作る,などが大切だろう。

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