第67回例会報告:ワークマン 「データ経営によるビジネス変革への挑戦」

第67回例会報告

今回の講師は、株式会社ワークマン 常務取締役情報システム/ロジスティックス担当の土屋哲雄氏。タイトルは「データ経営によるビジネス変革への挑戦」、サブタイトルは「データ経営で業態変革と年収100万円アップを実現」。
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一昨年のBSIAイベントで講演頂いたワークマンの土屋氏に、例会でご登壇を頂きユニークな取り組みについて再度お話を頂いた。

  データ経営に取り組んだ背景

土屋氏は三井物産の経営企画や製品開発、子会社の経営のキャリアを築いてきた。転職後は前職の経験を生かして、システムを担当しながら中期計画を策定し、何年掛けてでも結果を追い求めて実現させるという施策を実施している。特に注目できる点として「データ経営」を挙げる事が出来る。人はある程度の経験を積むと感と経験に頼ることが多くなる。しかしながら、自分自身で整理整頓してノウハウをまとめることも難しくなり、更に言えば第三者に伝授して同じ結果を出し続けるのは至難の業である。そこで今回の「データ経営」は売上を上げることは勿論のこと、長年の経験がある店長に対して、本部の若い人間が論理的に説明をして店長に納得してもらうために、様々な取り組みを実施してきた苦労話を含めて内容の濃い話をして頂いた。

  経営に対する危機感が動かした

「ワークマン」はプロ職人のワークウェア専門店である。職人は昨今減少傾向にあり、経営課題として客層を拡大しなければならないことが急務である。ワークマンのイメージとして筆者もテレビCMを相当昔から見ていた記憶がある。土屋氏の話によると、25年間1人の芸能人で放映していたそうである。一つのことを長く行うことはよいことかもしれないが、企業は保守的になり新しいことへのチャレンジをしなくなる。そのために企業イメージを変えると共に新たなテレビCMを制作して放映した経緯がある。

業界の中ではダントツのシェアを誇るが、日本全国に店舗をほぼ出店しているため数年後には天井に達し飽和状態になることが目に見えている。そこで土屋氏は中期経営計画を策定して新規事業への展開や、社員や店舗が夢のある目標に向かい、高い意識を持って取り組める施策を掲げてきた。その一つが社員の年間給与を100万円アップする目標である。この目標を実現させるためには今までの延長線で経営をしていては実現する可能は難しい。そこで、土屋氏の秘策として掲げたのが今回の重要なキーワードとなる「データ経営」である。一口にデータ経営と言っても簡単に実現するものではない。まずは、システムのデータの基盤をしっかりと見直さなければならない。例えば、論理在庫の数字を外部から見たいとの依頼が発生した時に、実在庫は存在するが論理在庫をデータとして所有していない状態であった。また、ゴミデータが多く存在しておりデータの価値が下がっていた為、ゴミデータを排除した品質の良いデータを保持することを考えた。つまり、データの価値、すなわち「データ経営」が実現できるかに大きく左右すると考えたからだ。

  データ経営の実現に向けた活動

「データ経営」を実現するにはデータだけ良い状態にすれば実現するものではない。他の要素として、ITインフラの整備やビジネス・インテリジェンス(BI)ソフトウェアは欠かせないが、最も重要視しなければならないのは「利用者の教育」であると土屋氏は持論を述べる。確かに、数字が表示されグラフ化された時に、そこから何を読み取れるのか、さらに深堀して詳細データを見た時にどんな状態になっているのか。更に、そこから何を感じて、どんな対策を講じればよいのか等のストーリーを構築して、相手に納得してもらえるだけのデータ武装を行い、理解して行動してもらえるだけのリテラシーを持ち合わせなければならない。なぜかと言うと、本部の入社5年目程で店長の経験の無い社員が、店舗経験や人生経験の長い店長に対してデータに基づいて論理的に話を展開して納得してもらえるには簡単ではないからである。相当の時間を過去の実績数字を様々な角度から分析し、今後の改善点を発見して、具体的な対策を述べて理解してもらう必要がある。その意味で、店長と対等もしくは店長よりも優れた経営の提案ができるように本部分析チームの人間を教育しなければ「データ経営」は成り立たない。

教育は本部の分析チームだけではない、最も活用をしてもらいたいのは店長である。店長が店の在庫状況、発注タイミングを経験則に基づいて実施するのではなく、BIシステムのデータを見て次のアクションを決めることが大きな目標である。その一つが店舗からの完全自動発注である。この目標に向けた取り組みを定期的に実施している。具体的には、BIシステムの閲覧ログを採取して全店舗を対象にして個人別に全て列挙する。アクセス件数で並べ替えると明らかに上位と下位では大きさ差が出る。ここからが重要なポイントなるが、上位と下位の人に対して直接店舗に赴きヒアリングを行う。上位の店長は一日に頻繁にデータを見て様々な視点から考察しているようである。結果として店舗の経営状態は良い傾向にある。一方、アクセス回数の少ない店長は自らの長年の経験に頼り経営を行っている。確かに、頭の回転が速くノウハウがあるため経営状態悪くは無い。しかしながら、経営指標の数字で言うならば確実にデータを頻繁に見ている店長のほうが結果を残していることが分かった。また、追跡調査を継続的に実施することで、店長の仕事のやり方がどのように変化したのかの実態を把握できるようになった。

教育に関しては社内で共通化した取り組みを実施している。その一つが勉強会である。体系的に初心者レベルから上級者コースまで教材を用意して利用者のリテラシーを向上させる活動を地道に実施している。更には、社内試験制度もあり、データ分析能力を向上させて新たな仕事に取り組めることや、データサイエンティストを育成することにも繋がり、社内全体としてデータに強い企業に成長することを意識して取り組んでいる。

加えて、社内会議も充実している。個人で取り組んで分析した内容を参加者の前でプレゼンテーションする場である。この取り組みはとても素晴らしいと筆者は考える。なぜなら、自分の頭で考えて課題を見つけ出し、データを用いて相手に納得してもらえるように促すことは、ビジネスマンとして重要な能力であると考えるからである。このように鍛えられた人材を社内に数多く育成し続けることができれば、とても魅力的な企業になるに違いない。

今後の更なる「データ経営」の進化を期待したいものである。

  質疑内容

Q.自動発注はどのように活用されているか。

A.店舗において発注が最も重要な業務であると理解している。一つ売れたら一つ発注する仕組みが既に存在している。最終的には夫婦二人で経営できる店舗業務をゼロにする事が目標である。個人の経験で発注を行うよりも、自動発注システムの方が店長20年の経験よりも優れていると自負している。

Q.店舗の店長がやる気になるにはどうしたらよいのか。どこまで教育を徹底しているのか。

A.役割を定義して利用者に作らせ、社長を巻き込んで利用させる事に尽きる。社風として言った事は必ずやりきるものがある。そのため、納期を設定せず目的を必ず達成させることをしている。現在は社長がその気になっているのが大きい。そのため、データ経営をすると社長から言って頂いている。教育は試行錯誤の繰り返しで行っている。
Q.アウトドアのファストファッションのブランドマーケティングは厳しいのではないか。

A.地方でワークマンブランドでは客層が広がらないため、ブランド名を変えて展開している。地方は過疎問題が深刻であり、職人よりも農業が多い地方が多く難しさを感じている。地方自治体によっては財政が難しく建設事業を大々的に進められない地域も存在している。

坂本克也(BI-Style株式会社・BSIA運営委員)

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