第64回例会報告:東京ガス 「東京ガスのITの現状と電力・ガス自由化に向けて」

第64回例会報告

 icon-check-square-o 沢田氏の経歴

沢田氏の経歴は実務部門からスタートした。最初にガス内官設備設計業務を担当し、既に建築された建物の中にガス官を通す設計を主に行っていた。図面だけでは理解できない部分もあるため、実際に建物の屋根裏に入り図面では分からない部分を体で感じ取り配管設計を作成していた。この時の経験が現場を知り、システムを構築する時に大いに役立ったという。その後に情報通信部に移動をし、本格的にシステムの仕事に携わることになる。主にガスの上下水道ライフラインを管理する設備管理システムの開発を担当した。また、東京ガスで作成したシステムを全国のガス会社や水道局へ利用して頂く活動を開始した時は、セールスSEとして全国を飛びまわる生活をしていた。

更に、情報子会社へ出向して官公庁向け、リテール向け、ゼネコン向けなど様々な業界に対してシステムを外販してた経験もある。加えて、東京ガスの情報通信部に帰任した時は、業務部門からの要件を中間的な立場としてまとめて、情報通信部門への橋渡し的な役割を担った。その後に家庭用ガス機器のエネファームの販売を立ち上げることで、東京ガスのあらゆるビジネスに関与してきた。最後に、情報推進部門に戻り、ITの番頭の役割となる全体統括の役割を担うことになる。時代の変化を察知してビックデータを取り扱い、データサイエンティスト集団のマネジメントを行うという一風変わった経歴を経由して現在に至る。

 

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東京ガスの概要

ガス会社はお客様をカウントする単位としてメーターで算出し、累計すると1,100万メーターのお客様が存在する。今後はグローバル企業を目指して海外への事業展開を加速している最中である。東京ガスの歴史においてかつてないほどの大きなイベントが直前に待ち構えている。ガスの自由化である。2017年4月からガスの小売は全面自由化となるため、電気と同じように沢山の事業者が参入すると考えられる。よって厳しい競争環境にさらされることが予想される。そのためにも、お客様に対してへのサービスの向上と、付加価値を更に改善させる対応が急がれる。

ガスの製造工程としては、海外から天然ガスをマイナス162度にして液化し、タンカーで調達し工場で製造を行う。初めて知った事実としてガス単体では無臭のため、ガスが漏れた時に危険であることを踏まえて、あえて臭いを入れている。その後小売を行うことで調達から販売と全ての領域に渡り業務が存在している。

 icon-check-square-o IT推進体制と役割

東京ガスの歴史イコール、日本のITの歴史を語ることに等しい。なぜならば、日本におけるシステムの遍歴そのものを時代の変化と共に利用してきたからだ。IT本部の位置付けとしては、戦略本部に属してトップマネジメント直属の組織として運営している。人数としては700人以上社員が在籍しおり、大規模な組織となっている。システムの運用保守は大人数になるが、新たな取り組みにチャレンジしている。例えば、ワークスタイル変革、テレワークの組織を構築し、新たな働き方を模索している最中である。

IT本部の役割として以下の2つをメインに活動している。一つ目は、事業インフラの担い手である。これは、災害・障害に強いシステムを実現することを目的とし、3.11を教訓にしてバックアップを強化すると同時に、情報セキュリティ対策を実施している。まさに、東京ガスを支える縁の下の力持ちの存在となる。更に、IT価値を継続的に出し続ける事も大切なミッションとして掲げている。

二つ目は、東京ガスグループ全体に対して業務改革の提案や、推進役となる事を目指している。加えて、新しいサービスの実現と、業務とシステムの効率化を柱に行う。個別のシステムは多岐に渡り存在している。小規模から大規模のシステムまで200存在している。維持管理を行う運用保守人員がとても重要となる分野でもあり、今後の課題にもなるであろう。

今後はBtoCのビジネスを強化するため、お客様に対して今以上に付加価値のある新たなサービスを提供しなければならないと考えている。システムは新しい技術を取り入れて新たに構築する事は可能だが、人のマインドは簡単には変えることが出来ない。実は、この部分をどのように変化させるかが今後の大きな課題である。これは、東京ガスに限ったことではなく、IT業界全体に言えることである。どこにも特効薬は無いため、各企業は模索をしながら日々格闘しているのではないだろうか。

 icon-check-square-o IT活用の歴史

元々はIT部門が東京ガスグループ全体を統括していたが、事業部門へ権力の分権化(権限と責任を部門へ委譲)する事へと大きく舵取りを変えた。この時代は社内コンサルタントの役割に徹していた時代である。今振り返ると、システム部門に責任が無いというマインドに変化したのがこの時であり、この時代のツケが後になり大きくのしかかることになる。東京ガス母体からすると、IT部門は一般的なITベンダーと同じ立場で競争しなければならない。更に外販をして自ら稼がなければならないという厳しい環境に立たされる。

現実は甘くなく幾つかの課題も発生した。事業部門へ分権したツケがあらわになり、ベンダーの過剰提案を事業部門は鵜呑みにしたケースが発生した。当然ながら目利き力の無い事業部門では、品質やコストの妥当性を判断する術がない。確かにスピードは速くなるが、コストが非常に高くなるケースも見受けられた。また、選定基準や方針を設けることなくシステム選定をしたため、様々なアーキテクチャ、パッケージ、OSを抱え込むことになる。これにより、最終的に維持管理を行うシステム運用部門が悲鳴をあげた。障害も多数発生し苦労の連続であった。

更に、システム間のデータ連携を密に行っているため、新たに追加される個別最適のシステム間のデータ連携に関する開発コストが高くなるにつれ、維持管理コストも増大した。やがてシステムの役割は時間の経過と共に、事業部門から依頼された事のみを行う受け身の体質となり、主体的に考えて提案することが皆無な組織へと変化してしまう。

その後にIT本部を設立する事により、ITサービスの機能をシステム部門に一括集中的した。付随して予算の集中管理、IT部門の役割責任を再定義して明確することで改革に取り組んでいる最中である。これからの東京ガスのビジネス展開と、システムの動きに注目である。

 

  質疑内容

Q.IoTを攻めのITとし考えている部分はあるのか。

A.通信網を利用して情報を飛ばしているシステムは既に複数事例としてある。ガスを止めたり動かすことは自動的に行なっている。業務部門ではデータを蓄えて次のステージに進んでおり、予防保全の取り組みを実施している。ガスのスマートメーターの取り組みも進めているが、電気のように時間帯の概念が無い。一番の悩みはコストになる。

Q.IT組織の中にIoTの部門は存在しないのか。
A.実は最先端技術を取り組む組織は今後作り取り組む予定。

Q.電気不足は聞いたことがあるがガス不足は起きるのか。計画停電があったがガスはコントロールできるのか。
A.ガス量の問題は不足する可能性は生じる。ガスの利用が最も高い時期は冬の寒い時期となる。予測して供給能力を考慮しているため、ある程度コントロール可能である。

Q.一度事業部門へ分権化した後に、IT部門はどのようにして名誉を取り戻したのか。
A.沢山の時間と手間を掛けて、更なる高みを目指して組織を作り上げている途中である。

坂本克也(BI-Style株式会社・BSIA運営委員)

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