第2回例会報告:宮田眼科病院「病院におけるユーザー主導のシステム導入・活性術」

第2回例会報告

5月30日に、第2回システムイニシアティブ研究会例会が開催されました。
今回は61名の方が参加されました。外は台風の影響の強風と寒気で、5月末とは思えない寒さでしたが、会場は熱気と活気にあふれました。
今回のテーマは「病院におけるユーザー主導のシステム導入・活性術」。
都城の宮田眼科病院のCIOでもある技術士の杉浦さんから、業務をいちばんよく理解している現場の医師・看護師にシステムの仕様のまとめ方、情報(データ項目)の整理方法などを指導し、自分達で使うシステムをデザイン、レビューし、バグ出しまで行うようになるまでの取組みをご紹介いただきました。
また、今回は、現場で実際に杉浦さんの指導をうけ、院内でノウハウ伝授の核となっている検査員(看護師資格所有)の尾方さんも参加され、「そうはいっても、大変だったんじゃないの?」というイジワルな質問にも答えられました。

杉浦さんの講演では、研修や話し合いの状況がリアルにわかるビデオや写真、実際のシステムの画面、杉浦さんとやりとりしているメールの文章なども見せていただきながら、情報システムの仕様づくりの経験が全くない現場の人たちが、どのようにスキルを身につけ、BPRの視点を持つようになったかをお話しいただきました。

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icon-check-square-o 地道に、邪心なく

後半は、ITLeaders編集長の田口さんのファシリテーションで、テーブルごとに議論、質疑応答が行われました。多くの方が興味をもたれ、議論がもりあがったのが「経営者の理解をどう得たのか」という話題です。
経営者である院長は、この取り組みを、単なるシステム投資や現場の効率化ととらえたのではなく、経営改革としてとらえ、多くの病院で来院者が減っている中、「待たせない」「公平な」対応で、顧客(患者)サービスを向上する、顧客中心経営を実践するための投資ととらえて、杉浦さんに全面的に任されることを決断しました。経営者の理解を得るということの1つのポイントとして、経営の価値で語るということが重要だということをあらためて認識しました。
ただ、一方で、経営者が「やれ」と言うだけでは成功はしません。「経営者の方を見ていればいいというのは『教科書』だけど、うまくいかない。『ビジョンはトップダウン、アクションはボトムアップ』だ。」と杉浦さんは言います。

杉浦さんは、経営者からビジョンを引き出す一方で、現場には「これは自分達のため、自分達の業務を楽にしたり、ミスをなくすためにやるのだ」と話して、業務外の時間でプロジェクトに取り組む現場の人たちを、時にはしかり、時には冗談を言い合いながら、

  • ツールの操作は、しっかりしたマニュアル・解説をつくり、丁寧に教える。(時には特定の人に向けたマニュアルを作成することも。)
  • 仕様書の書き方をチェックして、何度もやりとりし、細かく指導する。
  • 「本当にそれは必要なの?」「それはそのタイミングで必要なの?」 という質問をして、データ項目の整理や情報の流れの「考え方」を教える。
  • 単に現在の仕事の仕方をシステムにするのではなく、無駄なプロセスがないかを現場で考えるBPRの視点をもたせる。
  • 技術的にできる・できないは、杉浦さんが見極め、開発を行うベンダーにも無理にならない範囲、現実的なパフォーマンスでできること・できないことがあることを、現場に説明する。
  • 現場からの質問メールには、倍の量の文章で返して、コミュニケーションを密に行う。(仕事のことだけでなく、個人的な相談やにも反応)

などなど、とてもきめ細やかな指導をされました。

現場の尾方さんによると、「専門ではないのに『いつまでに、こういうレベルで』と言われて、『どうしてここまでやらないといけないのか』と思った」そうです。少しずつできるようになって面白くなってきたら、ガツンとしかられるということを繰り返しながら1つのものができ、別のものに展開できるのでは、と思えるようになったそうです。「『システム作りが現場に任せられているのだ』という責任感でがんばった。」と爽やかに話されました。

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最後に木内会長が「こういうきめ細やかなことをやって初めてユーザー主導のシステム開発が成功するのだと改めて思った。成功するためには共通することが2つ。1つは『地道にやる』こと。もう1つは『邪心がない』こと。杉浦さんはシステム部門のないところでこれを実践されたが、システム部門があるところは、システム部門がそれを実践しないといけない。」と話されました。

筆者感想

終了後、参加者のアンケートで面白いことがありました。ある人は杉浦さんの講演の感想で、「クロサワの『7人の侍』を連想してしまいました。」と書き、別の人は「流しのCIOのノウハウをもっと学びたい」と書かれていました。事務局も、杉浦さんが現場を変えていったお話を「西部劇みたいだ…」と思っていたのですが、杉浦さんの、硬派だけれど、ユーザーのBPRを「自分事」として、自分の時間や知恵をおしみなく投入する姿に、同じようなイメージを持ったのですね。

 

吉田太栄(システムイニシアティブ研究会事務局)

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