システム温故知新

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執筆者PROFILE
當仲寛哲 有限会社ユニバーサル・シェル・プログラミング研究所代表

「システム温故知新」

システムとは「仕組み」であり、何かをすれば意図した結果に結びつく。コンピュータはあくまでシステム実現の道具であり、速さとか正確さとか大量のものを処理することに長けている。AI や IOT、クラウドサービスなど、多くの新しい技術が次々に出てくる中、表面的なメリットに惑わされないで、システムの本質に立ち戻ってみれば、何をやるべきか見えてくる。
レガシーマイグレーションを急げ、という言葉がやたらに叫ばれている。コンピュータの世界では「レガシー」というと、忌むべき古くさい時代遅れの汎用機システムを指すようだが、一般語としての「レガシー」とは、時代が変わろうとも、守るべき建築物や伝統や技術などを指し、「レガシー」を大切にする精神はとても良いこととされる。その意味で行けば、処分すべきはメンテナンスが難しくなったコンピュータの箱とソフトであって、その中に入っている業務システムのロジックは、諸先輩方々や会社の歴史が詰まった「レガシー」である。レガシーマイグレーションの本質は、会社の歴史やノウハウを掘り起こし、若い世代に引き継ぐことである。もちろん、その作業過程で、不要なものはなくし、改善すべきものは改善することは良いことであるが、それはあくまで次手のことである。伊勢神宮の式年遷宮の記憶が新しいが、まさにレガシーマイグレーションの本質は次世代へ技術や伝統を引き継ぐことにある。レガシーマイグレーションは定期的に必要なのであるが、それをサボって来たツケが今日来ている。
昨今騒がれているAIは、機械学習とディープラーニングである。機械学習は実績値を使って、方程式の係数を求めるやり方である。例えば、気温とビールの売れ方がある関数で示される関係にあるというモデルに対し、実際の気温とビールの売れ方をどんどんその方程式に入れれば、方程式の係数が計算されるというわけである。一方ディープラーニングは、生物の脳の働きをモデル化し、入力データと出力データの組を学習させて、多数のニューロン細胞のモデルの方程式の係数を調整していくやり方である。
ディープラーニングの特徴は、ロジックや学習された計算係数は人間がよくわからないものであることだ。ロジックも係数も人には理解できないのに、不思議と画像やゲームなどのパターン認識には力を発揮する。いずれにせよ、適用分野は限られ、全体の企業システムからすると一部の領域をカバーしているだけなので、万能と言えるものでは決してない。
データベースはデータを入れる箱と思われているが、それは十分な理解ではない。データベースはデータの意味が分からなくてもプログラムが作れるために開発されたという側面がある。つまり業務とプログラミングを分離する。プログラマは仕様書から業務を読み取るのでなく、ロジックを読み取ってSQL などの言語を使ってプログラミングを行う。そのようにすれば、業務が分からなくても取り敢えずシステムは出来上がるので、業務が分からないプログラマがどんどん増えてしまった。システム開発業者に、「何を作るのか意味を理解してシステムを作る」という、業務側の人から見れば、当たり前のことが欠けていると感じている向きが多いと思うが、それがデータベースの思想から起因していると知っている人は少ない。システムイニシアティブは自社の業務をよく理解することから始まる。IT ベンダー側が業務に関心を持たない以上、システム内製化は必須の選択肢である。
日本はパッケージをカスタマイズして使うから、とても高コストについている。海外を見習ってパッケージをそのまま使うのが良い、という人がいるが、それは日本の文化や現状を考えれば、短絡である。パッケージに合わせて業務を行なえるケースに限る、というのが答えである。
多くの場合、日本の企業の競争力は、その会社の独自性や、現場の工夫、仕事のしやすさなどがベースになっていて、パッケージに合わせてそれらを「放棄」するわけにはいかない。従って足して2で割ったようなのが、パッケージのカスタマイズとなっている。ところがパッケージの内部は、変更しやすい作りになっていない場合が大半で、多くの手間とコストをかけて、複雑な作りにしてしまう結果になる。それぐらいなら、初めからシンプルにスクラッチ開発した方が良いのだが、パッケージのとりあえず「動作する」魅力に負けて、前者の道を選んでしまう企業が多い。開発のリテラシ向上は企業にとても大切なことである。
インターネットが目指すものは、世界中のデータの共有である。もちろん目的外に悪用されないような仕掛けを同時に作りながら、という前置きがあるのだが、現実は、利権の裏でデータの囲い込みがあったり、流用されてしまうという事態がはびこっている。その結果、日本では国民のIDすら整備して利用できない状況である。
ゴールを明確にして、責任を持って推進する力よりも、その場その場の利権の力の方が強いという証左であろう。BSIA が、流通する情報が何のためのものか、
ゴールとテクノロジーを明確にする推進役として、メッセージを発するようにならなければならないと考えている。
古きを温めて、新しきを適用する。温故知新とはシステム構築にぴったりの言葉である。

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